93.リンの秘策
リンが具体的な攻撃方法を言わなかったので、カナの頭の中は疑問符だらけになった。
魔法で間接的に物理攻撃?
間接的って何?
物理攻撃って何?
彼女は、時間切れが迫るクイズ解答者のごとく、焦りまくる。
それでも、彼女のためと思うリンは、助け船を出さなかった。
しかし、これがかえって、彼女の混乱に拍車をかけてしまう。
そうこうするうちに、ドラーゴ・ロッソが横から火炎を吐いてきた。
加勢を得たイズミは、ここで勝負を決めようと、矢を恐ろしい速さで連射する。
こうなると、リンの強力なシールドも、両方の攻撃を防ぎ切れなくなるのは時間の問題だ。
「あー、もー、限界!
何考えてるの! 早く攻撃して!」
「ごめんなさい!
間接とか物理とかの意味がわからなくて――」
「そこから!?」
「うん」
「ま、勉強嫌いのあんたのことだから、なんとなく、こうなる気がしてたけどね」
「ひどっ」
「じゃあ、言うとおり、そのまま実行して!」
「ラジャー」
「あらあら、急に元気になっちゃって……。
なんて現金なの?」
「えへへ」
「まず、真上に10メートルほど跳ぶ」
「ヨーソロー」
「宜候って、よくそんな言葉知ってるわね。
跳んだら、空中に止まって、連続して彼女の足下を爆破よ」
「へ?」
「左手を使って、強烈な奴を繰り出すのよ。
そして、土を巻き上げる。
それを連続――」
「あっ、そっか! わかった! 意味が!」
「やっと、わかったのね!?」
「うんうん。
間接的な物理攻撃とは――」
「その攻撃とは――」
「スカートめくり」
「あのねぇ……。
きゃー、いやーん、とか言って倒れる相手じゃないわよ。
そうじゃなくて、爆風と土砂で倒すの」
「……やっと、理解」
カナは、深呼吸をしてから、一気にジャンプした。
一方、リンは、右方向へ飛ぶ。
突然、相手が二手に分かれたので、戸惑ったドラーゴ・ロッソは攻撃を中断した。
イズミも、魔法を中断し、棒立ちでカナを見上げている。
今がチャンス!
カナは、左手を斜め下へグンと突き出し、右手を左肘に添えた。
「――爆破!!」
詠唱で左手の先に出現する、直径70センチメートル以上の金色の魔方陣。
そこから飛び出したのは、同じ直径で太陽のように白熱する球体。
イズミは、思った。
(ついにカナが本気を出した。
あれは、今までの試合の中で見せたことがない強力な爆裂魔法。
でも、いかに本気を出そうとも、魔法攻撃を無効化する宝玉がある以上、大丈夫。
しかも、焦って狙いが外れたのか、球体は手前に落下するみたい。
手前に?
まさか!)
輝く球体は、光の軌跡を描きながら、棒立ちになったイズミの0.5メートル手前に落下した。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
太い柱のように吹き上がる土砂。
場内に響き渡る爆発音。
揺れる客席。
土混じりの強烈な爆風が、イズミを軽々と吹き飛ばした。