92.間接攻撃
カナは、イズミの左手が、腰の辺りで何かを確認するような動きをすることに気づいていた。
おそらく、ミニスカートの左のポケットに宝玉を隠し持っているはず。
なので、一番近い位置にある右手から繰り出す稲妻で、イズミの左手の動きを封じようとした。
あわよくば、左手にダメージを与えることで、宝玉を使わせないように出来れば良い。
ところが、肝心の稲妻が、腕に到達する前に消滅してしまう。
宝玉の魔法無効化の威力は、想像以上だ。
これでは、お手上げである。
今から突進して、体当たりで宝玉を奪うか?
あるいは、もっと威力のある左手の稲妻で攻撃を仕掛けるか?
もし、体当たり――接近戦に持ち込んだ場合、対ユカリ戦で見せつけられた、あの素速いパンチに苦しめられるだろう。
イズミの、マシンガンのようなジャブや、鋭いアッパーが目に浮かぶ。
その全てを受け止めたユカリの真似は、到底出来ない。
でも、魔法を無効化する宝玉の威力は凄いが、それには限界があるはず。
だから、左手で渾身の雷撃魔法を繰り出せば、たとえ弱められたとしても、少しは届くはずだ。
カナは、腹をくくった。
そして、左手をグンと突き出して、構えを取った。
それを見たイズミは、動揺する素振りすら見せず、悠然と立っている。
(見せてあげる!
渾身の雷撃魔法を!)
カナは大きく息を吸って、短く詠唱する。
「――稲妻!!!」
すると、左手の先に、白色に輝く大きな魔方陣が出現。
そこから、空気を切り裂く音を伴って、数倍の太さの稲妻が発射された。
地上で発生した特大の雷鳴。
それが、グラウンドを転がり、スタジアムにこだまする。
音に震える観衆は、思わず耳を塞ぐ。
誰もが、まともに稲妻を食らったイズミが倒れることを想像した。
しかし、その期待は完全に裏切られた。
当の彼女は、平然と立っているのだ。
呆然とするカナ。
全力でぶつけた攻撃が、全く利いていない。
やはり、全力の稲妻でも、体の手前で消え失せているのだ。
あり得ないという顔をしているカナに向かって、今度はイズミが右手を突き出した。
「炎の矢!」
右手の先に出現した赤い魔方陣から、真っ赤に燃える矢が放たれる。
その矢が、カナの左耳をかすめ、髪の毛を少し焼いた。
威嚇なのか、攻撃が外れたのか。
このすれすれの矢に、避けようともしないカナの茫然自失ぶりは、尋常ではなかった。
「あんた、何してんの!?」
観客のざわめきに混じって、リンの鋭い声が届いた。
「炎の矢!!」
再び放たれる魔法の矢。
その刹那、カナの体の左側面が、何かの力で右方向へ押された。
横向きに倒れるカナ。
彼女の胸があった位置を通過する真っ赤な矢。
すんでの所で彼女を横へ飛ばしたのは、リンの魔法だった。
遠方から、強制移動の魔法を使ったのだ。
リンは、芝の上に倒れ込んだカナの方へ飛んでいき、素速く魔方陣を出現させ、盾代わりとした。
そこへ、イズミが矢を連続して撃ち込む。
だが、全ての矢は、リンの魔方陣が弾き返した。
「ばっかじゃない!
魔法で直接攻撃しても、相手には利かないのよ!」
リンの叱咤に、カナは半べそで反論する。
「だって、それしかできないんだもん!」
「魔法の直接攻撃は駄目!
間接的に攻撃しなさい!」
「えっ!? どうやって!?」
「魔法で、間接的に、物理攻撃するのよ!
頭を使いなさい、頭を!」




