90.勝負か覚醒か
イズミはドラーゴ・ロッソを一瞥し、すまし顔で頷いて、凜とした声で命令する。
「私は、カナと戦う。
ロッソは、リンと戦いなさい」
「だよと」
ドラーゴ・ロッソは、今度はリンの方へ顔を向ける。
「だとよ、じゃないでしょ!
そこは納得しない!
ご主人様は、質問に答えてないじゃない!」
「でもなあ……、そうは言っても、立場上、主には逆らえないから、悪いな。
それは、ご同輩も同じだろ?」
「だから、三年先輩」
「誤差の範囲」
「んもう! 先輩を敬うのよ」
「先輩と思ったこと、ないんだが……。
ま、いいか。
そんじゃ、一暴れするか」
「ふん。二百二十五勝の私に土をつけられるのかしら?」
「ん? リンとは、四百五十戦中、二百二十勝、二百二十五敗、五引き分けだったはずだが」
リンとドラーゴ・ロッソが構えに入ったとき、カナはドラーゴ・ロッソからイズミへ視線を移した。
「イズミ。なぜ炎竜を覚醒させようとするの?」
「それは……」
「それは?」
「最強のリンを見たいから」
「嘘よね?
今持っている宝玉に封印するためよね?」
「!!」
イズミは、さりげなくスカートの左のポケットへ手を近づけるも、慌てて引っ込めた。
それをカナは見逃さない。
「なぜ封印するの?
あのお方に頼まれたから?」
「あなたを炎竜の呪縛から解放するためよ」
「やっぱり、覚醒を認めるんだ。
封印を認めるんだ」
「……っ!」
「そういうのを関係なく、勝負しない?」
「勝負?」
「最強の私を見たいんでしょう?
魔法で真剣勝負をしたいんでしょう?
やれば出来るってところを見たいんでしょう!?
だったら、炎竜なんか、関係ないじゃない!!」
「!!」
「ねえ! そうでしょう!?」
「……え、ええ、そうね」
「だったら、今すぐ、そのポケットの中にある宝玉をこちらに渡して」
「!!」
「早く!」
「それはできないわ」
「なぜ!?」
「あなたの魔法に勝つためには、この宝玉――魔法を無効化するアイテムが必要だから」
「じゃあ、封印しないと約束してくれる!?」
「……」
「ねえ! 約束して!」
とその時、双方の言い争いにしびれを切らした審判員が、強引に試合開始を宣告した。




