89.燃える竜
熱風を振りまく竜巻は、やがて、その中心が赤々と燃え始めた。
次第に風が止むと、メラメラと燃える炎の大きな塊が残った。
その塊は、徐々にドラゴンの形の炎と化した。
高さは、3メートル以上。
羽を広げたら、その倍はあるだろう。
白く輝く目が、カナたちをギロッと睨む。
炎の揺らめきでも辛うじてわかる前足と鉤爪が、ニュッと突き出された。
そして、威嚇するためか、口をカッと開けた。
中は、喉の奥まで白熱球のように明るい。
5メートルほど離れていても、火のそばに近づいているような輻射熱が半端ない。
カナは、照りつける日差しを避けるかのように、顔の前で右手をかざした。
イズミが使い魔を召喚したのは、今大会では初めてだ。
なので、その偉容を初めて目の当たりにする観衆は、背筋が凍り、息を飲んだ。
SNSでも動揺が広がり、発言が爆発的に増えていく。
この炎の塊は、本当にドラゴンなのか! と。
そんなドラゴン――炎竜を前にして、なぜかリンは涼しい顔をしている。
「あんた、その暑苦しい登場の仕方、そろそろやめたら?」
「何を言う。
仕方ないだろ、体が炎で出来ているのだから」
腹にずしんとくる低い声が、ドラゴンの方から聞こえてきた。
「久しぶりね、ドラーゴ・ロッソ」
「おう、元気してたか、リン」
「当然よ。パワー全開。
あんたみたいに、ブスブス燃えていないわよ」
「何を言うご同輩」
「何よ、私の方が三年先輩なんだからね」
「五百歳も四百九十七歳も誤差の範囲だろうが」
「それはそうと、あんた、その子を選んだのね。
ということは――」
「火炎魔法では、ヤマト国の魔法少女の中でダントツ、ぶっちぎり。
だから、契約した。当然だ。
そういうリンこそ――」
「そうよ。爆裂魔法、雷撃魔法、その他諸々、破壊系の魔法のプロフェッショナル。
こっちはヤマト国、いいえ、世界の魔法少女の中でもトップレベル。
おそらく、魔女まで広げても上位クラス。
いずれ、世界一になるわ。
でもねぇ……」
「ん? 欠点でもあるのか?」
「気が弱いのよねぇ……。
だから、全力が出せない。
本気出してないって感じ」
「ふむ。そういう魔女は、昔もいたな。
そいつらは、芽が出ないまま死んでいったから、周囲は凄さがわからずじまい」
「いるのよねぇ、凡人で終わる天才が」
「うむうむ」
「天才を気取った凡人も」
「うむうむ」
「まあ、積もる話はおいといてっと。
ところで、ドラーゴ・ロッソ。
その子、うちのカナの炎竜を覚醒させるつもりらしいけど、その話に乗ったの?」
「はあ? 知らんぞ。
どこぞの炎竜だ?」
「あら、やだ。知らないの!?
カナに――ってか、蜂乗家に伝わる炎竜。
昔ヘルヴェティア王国の魔女とか、あちこちに宿主を変えていた、真っ赤な目をした巨大なあいつよ」
「ああ、あの化け物みたいな炎竜のことな。
流れ流れて、ヤマト国に入り込んだという奴」
「そうそう、あのデカ物。
流れに流れたってか、ヤマト国に宝玉ごと持ち込んだのは、十一姫っていう魔女殺しなんだけどね」
「今は、その子の中に宿っているのか?」
「そうよ」
「ほう。そんな炎竜を覚醒するって、なんでまた?」
「それはこっちの台詞。
ご主人様に聞いて」
「そうなのか?」
ドラーゴ・ロッソは、イズミの方へ顔を向けた。