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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会

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84.利用されたイズミ

 イズミは、更衣室のベンチに一人で座っていた。


 彼女は天井を見つめ、少し前にマイコたちからいろいろ質問されたことを思い返していた。



 だが、彼女は(かぶり)を振った。


 とにかく、次の試合に向けて集中しなければいけない。


 それで、両頬を手で叩いて、気持ちを引き締めた。



 まだこの時点で、準決勝の組み合わせは発表されていなかったが、彼女は薄々、相手がカナであることに気づいていた。


 彼女は、今一度、カナの攻撃方法を振り返った。



 とその時、更衣室を開けて入ってきた者がいた。


 直ぐさま振り返ったイズミは、アンドロイドのスタッフがこちらを向いたまま扉を閉めているのを見た。



 どうも様子がおかしい。


 なぜか、アンドロイドから魔力を感じるのだ。


 イズミは、拳を握り、警戒する。



「調子はどう?」



 この声は、聞き慣れたアンドロイドの機械的なイントネーションではない。


 明らかに、人間だ。


 ということは、アンドロイドに化けた誰かである。



「もしかして、あなた様?」


「そうよ。ビックリした?」


「アンドロイドに憑依……はしていませんよね?」


「機械に憑依は無理よ」


「そうですよね。

 ところで、いらっしゃったということは、また打ち合わせでしょうか?」


「あの人たちに、私のことをいろいろ聞かれたでしょう?」


「え……ええ」


蜂乗(はちじょう)マイコは、何と?」


「ヴァルプルギスの魔宴の阻止のために炎竜を覚醒するのは、本当かと。

 それをそそのかしたのは、あなた様かと」


「それに対して、何と?」


「その通りですと」


「それから?」


「覚醒は断固として許さないからと言うので、少しは抵抗しましたが、最後は『わかりました』と引き下がりました」


「いいわよ、いいわよ。

 打ち合わせ通りね。

 感づかれなかった?」


「大丈夫です。

 信じたと思います」


「さすが、演技派の優等生」


「それで、今日、私は炎竜を覚醒させて、直ぐさま宝玉に封じ込めればいいのですよね?」


「そうよ。宝玉をちゃんと持っている?」



 イズミは、スカートのポケットから、ピンポン球くらいの大きさの、艶々した赤い球をチラリと見せた。


 すると、無表情のはずのアンドロイドの口元がほころんだ。



「少し伺っておきたいのですが」


「何を?」


「そもそも、なぜカナに炎竜が宿っているのですか?」


「なぜかって?

 それは、百七十年以上前に遡る話だけれど、蜂乗家(はちじょうけ)の初代当主が、私の宝玉を奪ったことから始まったの。

 当時、まだ未熟だった私は、当主の挑発に乗って宝玉を賭けた勝負に出てしまって。

 若気の至りね」


「そんなに強かったのですか?」


「悔しいけれど、認めざるを得ないわ。

 その当主は、奪った後で何をしたのか知らないけれど、炎竜が体に宿ってしまった。

 以来、蜂乗家(はちじょうけ)の中で魔力が強い人間が生まれると、炎竜が次々と宿主を替えていった、というわけ」


「そういう経緯なのですね」


「その後、今から四十年くらい前、そうねぇ、蜂乗(はちじょう)マイコに炎竜が宿った頃だけれど、その時に宝玉を取り戻したの。

 でも、炎竜をどうしても覚醒できない。

 だから、宝玉に封じ込められない。

 覚醒には、ドラゴンと大量の魔力と火炎魔法が必要なの」


「今まで、三拍子揃った環境はなかったのですか?」


「あったら、とっくに覚醒させて宝玉に封じ込めているわよ。

 今回、あなたのドラゴンと強力な火炎魔法がある。

 そして会場にはたくさんの魔法少女が魔力を供給してくれる。

 つまり、ここが三拍子揃う初めての環境なの」


「封じ込め方なのですが、例の呪文を唱えるだけでいいのでしょうか?」


「もちろん」


「ポケットから宝玉を取り出さなくても、炎竜は勝手にこれに封じ込められるのでしょうか?」


「YES」


「ポケットの中に吸い込まれるようなところは、見えないでしょうか?」


「あらあら、心配性ね。

 炎竜は、封じ込まれるときは、一瞬よ。

 姿が消滅したように見えるはず。

 ポケットの中までは、疑われないわよ」


「安心しました」


「あとは、あなたが、『魔法を間違えて覚醒させてしまったけれども、呪文で瞬時に消しました』と釈明する」


「それで納得してもらえるでしょうか?」


「納得させる(ヽヽヽ)のです」


「でも、本当に私が納得させ――」


「あら? 約束は守ってもらわないと」


「ですが……」


「何を今更。

 はぐれ(ヽヽヽ)魔女があなたの妹さんにかけた闇魔法を解除したのは、この私ですよ。

 今回協力してくれれば、お父様とお母様にまでかけられた闇魔法も解除する約束でしたが、いいのですか、放置しても?

 明日にも死んでしまいますよ」


「……わかりました。

 それと、もう一つ確認したいことがあります」


「まだ何か?」


「宝玉は、元の持ち主に返されるのですよね?」


「返します」


「わかりました」


「では、成功を祈ります」



 そう言ってアンドロイド――(くのつぎ)一姫(いつき)は、イズミにくるりと背を向けて、更衣室を出て行った。


 彼女は、廊下を歩きながら、笑いを必死に堪える。


(元の持ち主に?

 返すわけないじゃない。

 だいたい、そいつは、白骨になっているし。

 宝玉のもう一つ(ヽヽヽヽ)の使い道があることを知っているのは、今や私だけ。

 長生きはしてみるものね)



   ◇◆◇■□■◇◆◇


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