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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会
81/188

81.盗まれた宝玉

 翌日の試合開始前のこと。


 ここは、スタジアム内の会議室。


 マイコとカズコは、横長のテーブルを前に、腕組みをしながら座っていた。



 普段は、口の字にテーブルが配置されているのだが、今はコの字の部分が片付けられ、代わりにパイプ椅子が一つ、テーブルの真向かいに置かれている。


 まるで、面接会場のようである。


 マイコが、正面を向いたまま切り出す。


「昨日、あれから無事に帰れた?」


「もちろんよ。

 もともと、狙いは私じゃなくて、マイコたちの方でしょうし」


 カズコは、マイコの顔を覗き込んで答えた。


 それでもマイコは、正面を向いたままだ。


「さっきの五潘(ごはん)イズミの証言。昨日と何も変わらなかったわ。

 と言うことは、(くのつぎ)一姫(いつき)がヴァルプルギスの魔宴を阻止するために炎竜を覚醒する、という嘘の理由で彼女を焚きつけたことは、間違いなさそう」


「そうみたいね」


「でも、よく考えればおかしい話なのに、頭の良い彼女がなぜ騙されるのか、理解できないわね」


「弱みを握られているとか?

 ……あ、ノックの音が」


「来たわね。

 あの椅子、片付けて」


「了解――って、マイコ。あんたこそ、体を動かさないじゃない」


「ヘッドセットつけないと」


「無視ですか……」



 カズコは、よいこらしょっと立ち上がって、よたよたと歩いて行き、正面の椅子を片付ける。


 と同時に、扉が開いて、車椅子の少女が入ってきた。



 カトリーン・シュトラウスである。



 彼女は、周囲を見渡してから、椅子が置いてあった位置まで車椅子を動かす。


 そして、小首を傾げながら、ヘッドセットを着用した。



「呼んだ理由は何ですか?」



 マイコは、カズコが着席し、ヘッドセットを着用したのを確認してから口を開いた。


「昨日、記者団を前に、今日の試合で炎竜を覚醒させる話を公言したようですが、その理由を教えてください」


「ああ、そのこと。

 ……まっ、そう来ると思っていましたが。

 昨日のインタビュー記事をご存じないのですか?」


「記事は読んでいますが、理由は一言も書かれていません」


「理由など必要ないでしょう。ヤマト国の愚民には」



 その時、カトリーンが、胸の前で素速く、両手の親指と人差し指で長方形の形を作った。


 ――刹那、マイコが、右手を突き出す。


 すると、カトリーンは、まるで電気にでも触れたかのように全身がビクッとなって、目を丸くする。



「心を読もうとしても無駄です」


「ふう……。

 世界三大魔女は、レベルが違いますね」


「ことを大きくしたくはありません。

 正直に答えてください」


「……いいでしょう。

 覚醒の目的は、二百年前にヘルヴェティア王国から盗まれた炎竜の奪還です」


「盗まれた?」


「当時、とある魔女が密入国し、ヘルヴェティア王国随一の魔女の体内に宿っていた炎竜を覚醒した後、宝玉の中に封じ込めました。

 それがどこに持ち去られたのかを、代々調べていたのが、シュトラウス家です」


「つまり、あなたのご先祖様が、二百年間も探し回っていたと?」


「そうです。

 長年行方不明だったのですが、私の母の代になってようやく、ヤマト国のイツキ・クノツギに宝玉が渡っていることが判明しました。

 まさか、こんな辺境の土地にあるとは思っても見なかったので、調べもしなかったのが敗因です」


 聞いたこともない話だったが、マイコは顔色一つ変えなかった。


「その話は、どこまで本当なのですか?」


「なら、どこが違うのですか?」


「初耳です」


「初耳なら、疑うのですか?」


「いいえ。続けて」


「本当は、ご存じなのですね?

 だから、心を読む魔法を封じた――」


「いいから、続けなさい」


「……なんという言い草。

 まあ、いいでしょう。

 そのイツキ・クノツギに接触したら、すでに盗まれたとのこと。

 それで、ヤマト国をくまなく探したのですが――」


「いつ頃、(くのつぎ)一姫(いつき)と接触したのですか?」


「今年の7月です」


「それで?」


「イツキ・クノツギが言うには、10月に魔法少女世界選手権大会があるから、そこに宿主が出場するかも、と。

 私は、昨年の大会で、ユカリ・ナナミの魔法で半身不随になったので、リベンジのため出場することになっていましたから、これは好都合と思いました。

 それで、会場を回っているうちに、カナ・ハチジョウに宿っていることを見つけたのです」


「本当は、五潘(ごはん)イズミの心を読んだのでしょう?」


「なぜそれを!?

 ……ははん、イズミ・ゴハンから聞きましたね」


「彼女が先ほど、白状しました」


「なるほど、彼女もこうして取り調べを受けた……。

 だから、さっき、椅子を片付けていた……。

 そうです。宿している人に抱きつかないと感じませんから。

 一人一人、ハグするわけにはいきませんし。

 誰が炎竜を知っているのか、ヤマト国の魔法少女の心を読んで歩いていたのです」


「それで、覚醒させてからどうするのです?」


「このアミュレットに封じ込めます」



 そう言ってカトリーンは、セーラー服の胸元から、2個の透明な円錐形を底面でつなげたようなアミュレットを取り出した。


「封じ込めて、どうするのです?」


「先ほども申し上げたとおり、国へ持ち帰ります。

 盗まれたものを取り返すのですから、当然の権利です」


「覚醒は、非常に危険な行為です。

 なので、試合中か否かにかかわらず、断じて許すことは出来ません」


「なら、ヘルヴェティア王国とヤマト国との国家間の問題にしましょうか?」


「何の問題にですか?」


「盗品の返還要求に対して、返還に応じない、ということをです」


「あなたには、その権限があるのですか?」


「あります。シュトラウス家は、ヘルヴェティア王家の分家です。

 いざという時の権限は、王家から委譲されています」


「炎竜を、まるで盗まれた国宝級の壺のような扱いにするのですね?」


「いけませんか?

 なら、これから記者会見を開いて、盗品の返還要求をしますが、よろしいのですか?

 ハチジョウ・ファミリーの名前に傷が付きますよ。

 先ほど、ことを大きくしたくはありません、っておっしゃったのは誰でしょうか?」


 ニヤリと嗤うカトリーン。


 だが、マイコは断固として言い放った。


「炎竜をこのスタジアムで覚醒させることの方が、大問題です!」


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