71.ヴァルプルギスの魔宴
「その説明の前に、『はぐれ魔女』のことを、カナはどこまで知っているの?」
「魔女の一族に所属しない魔女、くらいです」
「カナの年齢までなら、その程度でいいわ」
「年齢で違うのでしょうか?」
「魔法使いに関わることは、年齢に応じて、親から知らされる内容が違うの。
最初は簡単に、後で詳細に。
学校のお勉強と同じと思えばいいのよ」
「わかりました」
「もう少し大きくなれば、実態とか裏事情とかを教わるわ」
「はい。でも、可能なら、早く知っておいた方が――」
「組織化されつつある『はぐれ魔女』の構成とか拠点とか、それにも属さない一匹狼の『はぐれ魔女』との抗争とかを、今知りたいの?」
「なら、いいです……」
「その『はぐれ魔女』が、十三年に一度、四月末に大集会を開くの。
これが、ヴァルプルギスの魔宴。
次の開催年は、来年よ」
「来年ということは、半年先ですか?」
「そうよ。
この大集会、ヴァルプルギスと言っておきながら、場所は毎回異なるの。
どこで開かれるかは、彼女らしか知らない。
しかし、彼女らも直前にならないとわからない」
「主催者は、誰なのですか?」
「魔王の側近よ」
「本当ですか!?」
「単に、宴会を開いて騒いでいるだけならまだましなのに、問題は、この大集会が開かれている間に、何らかの血なまぐさい事件が起こること」
「事件!?」
「おそらく、『はぐれ魔女』が、魔王の側近にたきつけられて事件を引き起こすのよ。
カナの炎竜を使って阻止するということは、この魔宴に参加している魔女たちを、あわよくば側近ごと、一気に叩き潰すこと。
業を煮やしたあのお方が、考えそうなことじゃないかしら?」
「それは、やり過ぎだと思います。
参加する『はぐれ魔女』が全員、悪者だとは思えません。
ごく一部のはずです」
「だから、お母様が『絶対に覚醒させない』とおっしゃっているのよ」
「私も、それが正しいと思います」
「後は、炎竜の暴走のことかしら?」
「それはおそらく、炎竜が戦いの最中に逆上して、無差別に攻撃を始めるのではないでしょうか?」
「推測しかできないけれど、そうかも知れないわね」
「私はそれよりも、なぜイズミたちが炎竜を覚醒したがっているかが気になります。
何か、もっと裏の事情があるのではないでしょうか?」
「今は、本人たちがいないから、憶測でしか言えないわ。
普通に考えれば、あのお方に賛同した?
それとも利用されている?」
「もっと気になることがあります」
「何かしら?」
「『はぐれ魔女』たちを叩き潰した後、炎竜をどうしようとしているのでしょう?
お役目ご苦労様と、また私の体の中に戻そうとするのでしょうか?」
「うーん。謎は深まるわね」
「姉さん。これは、考えれば考えるほど、怪しいですよ。
僕は、一足飛びに考えて、炎竜と魔王が結びつくんじゃないかな、と思っています」
「あら、マコトらしい大胆な推理ね。
裏で操っているのは、魔王と言うこと?
でも、魔王が魔女を掃討するの?」
「あっ、……そうでした。
なら、こう考えてはどうでしょう?
ヴァルプルギスの魔宴の阻止をエサに、炎竜を覚醒させ、実は違う目的に利用する」
「ナイス推理ね。
ということは、魔王の真の目的は――」
「「炎竜でこの世界を滅ぼすこと!」」
ミナとマコトはハモった。