56.魔法のコピーアンドペースト
ブーイングとカナコールが混じる中、審判員の合図で試合が開始された。
カナは、マリアンヌが体当たりと義足による蹴りで攻撃してきたことから、魔法ではなく、肉弾戦を仕掛けてくると読んだ。
それで、空手の半身の構えを取る。
ところが、マリアンヌは、少し前傾姿勢を取ったものの、飛びかかってこない。
その代わり、右手の人差し指をクイクイッと曲げて、『来いよ』と挑発する。
接近戦に持ち込まれると、強靱な義足による蹴りは明らか。
回し蹴りが後頭部に当たると、体を魔法で強化しているとはいえ、失神は確実だろう。
蹴りの一発で勝負を決めてくる可能性は十分ある。
何としてでも、あの蹴りは避けたいところ。
カナは、挑発には応じることなく、構えを崩さない。
逆に、じらして、相手から飛び込ませる作戦だ。
だが、実際に飛び込んできたら、どんな手を使おう?
考えを巡らせているうちに、マリアンヌの右手が正面に突き出された。
そして、左手を右肘に添える。
(えっ!? あの構えって――)
「――ライトニング!」
マリアンヌがカナの口調で詠唱すると、右手の先に白く輝く魔方陣が出現し、小型の横向きの稲妻が飛び出した。
いや、飛び出したと思った時には、カナの左肩をかすめて稲妻が通過していた。
(今のは、雷撃魔法!?)
驚愕するカナは、足がすくんだ。
この威力の雷撃魔法を他人から受けたのは、初体験だったからだ。
「ヌフェパ ドゥ パンセ(考え事をするな)!
――ライトニング!」
再び、魔方陣から稲妻が発射される。
今度の稲妻は、カナの右頬をかすめて、髪の毛の一部を焼いた。
この速さは、カナの雷撃魔法と同じ。
詠唱が終わってから瞬時に到達する速さなので、詠唱の前に回避行動を取らないといけない。
自分から相手に雷撃魔法を使っているが、逆にやられると、こうなるのだ。
カナは、改めて、自分の魔法の威力に感心した。
だが、感心している場合ではない。
相手は、連続的に魔法を繰り出してくるのだ。
「アンコール プリュ(まだまだ)!
――ブローアップ!」
今度は、魔方陣が金色に輝き、バレーボール大の赤く燃える球体が飛び出した。