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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会
54/188

54.卑怯な不意打ち

「エロワーニュトワ デレ(彼女から離れなさい)!

 シノン(さもないと)――」


「チ! ……トリュイ(雌豚め)」



 マリアンヌは、イズミのフランク語による警告に舌打ちをする。


 そして、忌々しそうに、義足でカナの後頭部を蹴る。


 それから、カナをまたいで振り返ると、今度は腹部を思いっきり蹴り上げた。



「ぐふっ!」


 宙を浮くほど強く蹴られたカナは、咳き込みながらイズミの近くまで転がった。


(フレッチャ・)の矢(ディ・フォーコ)!」



 イズミの略式詠唱で、魔方陣から赤々と燃える矢が発射された。


 矢は、マリアンヌが手にする火の玉まで一瞬で到達し、衝突後、火の玉ごと消滅した。


 目をぱちくりさせるマリアンヌは、自分の手のひらとイズミを交互に見る。



 そこへ、アンドロイドのスタッフが数名、騒ぎの状況を確かめに駆けつけてきた。


 スタッフらは、目からの情報を、本部へ転送するのだ。


 マリアンヌは、そんなスタッフの二人からヘッドセットを二つ奪い、一つは自分で装着し、一つはイズミに向かって放り投げた。



 これで話をしようと言うことらしい。


 イズミは、無言でヘッドセットを装着する。


 さっそく、マリアンヌの声が聞こえてきた。



「下手なフランク語を聞かされるよりは、この方がまし」


「込み入った話になるなら、この方が楽でいいわ」


「ヤマト国の人間のくせに、詠唱はイタリオン語とは、でたらめだ」


「人により、詠唱で使用する言語は異なるわ」


「さすが、猿まねが得意な、猿の住む国だ。

 輸入した魔法を使い、自分たちの言葉で操れないとは、死ぬほど笑える」


「それより、試合開始でもないのに、いきなり急襲とは、そちらこそでたらめね。

 卑怯者の手口よ。

 そうでもしないと、勝てないほど弱いのかしら?」


「ヤマト国のプロレスリングの試合では、いつもそうだろう?

 あれと同じ、前哨戦って奴さ。

 試合開始前に場外で乱闘して、観客を盛り上げる。

 エンターテインメントに必要なこと。

 何が悪い?」


「どこが盛り上がっているの?

 ブーイングしか聞こえないけれど」


「周りが、ヤマト国の魔法少女の信者ばかりだからさ。

 テレビ中継を見ている全世界では、今頃拍手喝采に決まっている。

 このスタジアムの評判だけで、全世界の評判を推測するな」


「大会に一役買っているなんて、嘘を言わないで。

 目的は、復讐でしょう? ヤマト国の魔法少女への」


「ズバリ言うねぇ。

 ……そうさ。この右足の恨みを晴らすためさ」


「それは、ユカリとの試合で失ったのでしょう?

 カナには――」


「関係ある。ヤマト国の魔法少女だからさ。

 誰でもいい、恨みさえ晴らせれば。

 こいつは、両足を粉々に砕いて、義足にしてやる」


「呆れた……」


「試合でお前と会うときは、お前の両腕をもぎ取って、義手にしてやる。

 ユカリという標的を先に倒してしまったからな。

 この一年間、ただただユカリのことを思って練習してきたのに、その標的を奪った奴だからな」


「ヤマト国には剣道というものがあって、そこには、試合の勝ち負けにこだわらない美学があるの。

 己に克ち、相手を敬う。

 全ての武術に通じる美学よ。

 魔法も同じ」


「殺されるか殺すかしかない世界に生きている人間には、到底考えられない。

 そんな美学は、平和ボケの白日夢だ。

 昔、フランク王国では魔女狩りの嵐が吹き荒れた。

 私たちには、その時に恨んで死んでいった魔女たちの、血が、遺伝子が受け継がれている。

 魔女を忌み嫌って襲ってくる相手を敬え?

 死んでから敬うんだな。

 先に相手を殺さないと、自分が死ぬんだぞ」


「フランク王国では、試合は殺し合いなの?

 だったら、なぜオリンピックで殺し合わないの?

 議論をはき違えているわよ」


「馬鹿かお前は。

 オリンピックで殺したら、選手が枯渇するだろう?

 だから、手を抜いて、死なない程度にやっているのさ。

 ヤマト国の猿は、へりくつを巧みにこねる、と聞いている。

 お前を見ていると本当のようだ。

 典型的なヤマト国の猿だ」


「だったら、あなたをフランク王国何百万人の典型と考えていいのね?

 残虐で、卑怯で、下劣な――」


「イズミ、……もういいから」


 カナが、腹を抱えながら、ヨロヨロと立ち上がった。


「カナ!」


「もう平気。

 試合で右足を失って、絶望と恨みの中で生きてきたのよ、マリアンヌさんは。

 だから、ヤマト国の全てが憎く思えてしまう」


「カナ――」


「私は、やられたからって、やり返さない。

 卑怯な真似を使われたからって、卑怯なやり方で仕返しをしない。

 これは、魔法少女の魔法での試合。

 正々堂々、私は私のやり方を貫く。

 そして――この試合に、必ず勝つ」


「口がきけないようにしてやる」


「イズミ。マリアンヌさんは、なんて?」


「口をきけないようにしてやるって」


「だったら、私は――マリアンヌさんが間違っていることを、試合の中で教えるわ」


「殺してやる」


「イズミ。今度は、なんて?」


「……よく聞き取れなかった」


「あっ、試合開始の合図。

 行ってくるね」



 カナは、マリアンヌの後を追うようにダグアウトを出て行った。


 彼女の後ろ姿を見送ったイズミは、ため息をついた。



「そこにいるの、マイコさんの使い魔でしょう?」



 とその時、イズミの後ろで半開きになっているドアの向こうで、大型犬のような黒い影が動いた。


 そして、イズミの頭の中で声がする。



『汝は、後ろに目があるのか?』


「使い魔を放っていることを知ったので、警戒をMAXにしていたの。

 だから、背中を向けていても、気づくわよ。

 それより、ちょっと、こっちに来てくれる?」


『いいだろう』



 すると、黒い影は、一筋の煙のようになって、ドアからイズミの背後に近づいてきた。


 煙は、イズミの背後で、見る見る黒い大型犬の姿になっていく。



 その気配を感じた彼女は、ヘッドセットを外しながら振り向いて、しゃがみ込んだ。


 そして、犬の耳に口を近づけ、小声で囁く。



「お願い。ご主人に伝えて欲しい話があるの。

 それは――」


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