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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会
51/188

51.カナの秘密

 イズミが周囲を見渡すと、驚きの光景が広がっていた。


 薄い緑色の霧の向こうは、まるで静止画。



 担架を運ぶアンドロイドのスタッフも、その後から追いつこうとしているカズコも。


 観客席で腕を上げる人も、つかみ合う人々も。


 旗を振る人も、翻る旗も。


 ダグアウトからこちらを見ているカナも。



 全てが永遠に凍り付いたかのようだ。



 完全な無音状態に、かえって耳鳴りがし始めたイズミは、両手で耳を押さえた。



「これは、人払いの結界ですか?」


「結果的には、そうです。

 でも、通常の人払いの結界とは違います」


「外は、どうなっているのですか?

 時間を止めたのですか?」


「時間を止める魔法には、有効範囲があります。

 カメラでテレビ中継されていることを考えてご覧なさい。

 その先で観ている人たちが住む世界の時間を止めることは、遠すぎて不可能です」


「ではどうなっているのですか?」


「あなたなら、どうします?」


 顎に人差し指を当てて、小首を傾げたイズミは、すぐに唇がほころんだ。


「わかりました。

 私たちは、異空間にいるのですね」


「残念。私たちは、観客と同じ空間にいます」


「なら、……私たち二人の時間を操作しましたね」


「ご名答。

 この結界の中と外とでは、時間の進み方が違います。

 中の5分が、外の1秒くらいに。

 なので、周囲は止まっているように見えても、実は非常にゆっくり動いているのです」


「そういう状態って、周りからは、どう見えるのですか?

 この緑の霧も見えるのですか?」


「私とあなたが、およそ1秒間立ち尽くしているだけにしか見えません。

 今から、お話しするのに使う時間は、周囲の時間ではおよそ1秒間ですから」


「なるほど――」


「では、本題に入りましょう」


 マイコは、コホンと軽く咳払いをして切り出した。


「あなたは、カナとお友達のようですね」


「ええ」


「昨日初めて会ったようですが、あの人見知りのカナがずいぶんと楽しそうにお話ししているみたいで」


「ええ。仲良くさせてもらっています」


「目的は何ですか?」


「目的?」


 イズミの顔から笑みが消えた。


「カナに近づく目的を聞いています」


「いえ、同い年の十三歳で、気が合うお友達で――」


「では、少し突っ込んで質問します。

 決勝戦で勝負することを約束しているようですが、そこで何をしようと考えているのですか?」


「その約束を、カナさんがお母様にお話されたのですか?」


「いいえ。

 審判員なので、選手とは期間中に自宅などプライベートな空間で会うことはできません。

 それは、あなたもよくご存じのはず」


「なるほど。使い魔を放ったのですね。

 私たちは始終監視されていた、と」


「答えるまでもないでしょう。

 会っていないと言えば、当然の結論です。

 それで――」


「目的ですね。

 わかりました、お教えします。

 彼女のメンタル的に弱い部分を補強して、真の力を引き出すためです」


「コーチを依頼した覚えはありません。

 それに、決勝戦での勝負の理由につながりません。

 あなたは、カナに力をつけさせて、最初からカナに負けるつもりですか?」


「正直に申し上げていますが――」


「自分から言わないのですね。

 なら、言いましょう。

 あなたは決勝戦で、カナの中に眠る、ある物を覚醒させるのですね?」


「……」


「顔に書いてありますよ、図星だと」


「……参りました。

 さすが、お母様は世界三大魔女」


「とにかく、覚醒はさせません。

 この大会を中止してでも阻止します。

 それより、あれ(ヽヽ)を誰から聞きました?

 なぜ興味を持つのですか?」


「守秘義務がありますので、名前はお答えできません。

 これには五潘家(ごはんけ)は無関係ですので、母を問い詰めないでください。

 単なる、個人的な興味です」


「まだ隠すのですね。

 興味は、きっかけに過ぎません。

 その先の目的があるはずです」


「いえ、これは本当です!

 覚醒した結果、どうなるかまでは深く考えていませんでした。

 カナさんの中に眠る灼眼の炎竜が目を覚ませば、世界中の悪いはぐれ(ヽヽヽ)魔女を撃退できる、と漠然と――」


「では、あなたは、今度のヴァルプルギスの魔宴をカナの力で阻止しようと?」


「……は、はい。

 ご、ごめんさい!

 もし身勝手なことでしたら――」


「ついに、白状しましたね。

 正直でいいですけれど」


「え?」


「今度のヴァルプルギスの魔宴のことを知っている人は、特定されます。

 カナを覚醒させるように仕向けたのは、あのお方(ヽヽヽヽ)ですね」


「鎌をかけたのですね……。

 確かに、あのお方(ヽヽヽヽ)です。

 でも、お許しください!

 悪気では――」


「わかっています。

 あなたは、純粋な目をしています。

 信じましょう」


「ありがとうございます!」


「とにかく、覚醒はさせません。

 ヴァルプルギスの魔宴の阻止に灼眼の炎竜を使うのは、ヘリコプター1機を撃墜するのに宇宙ロケットサイズの大型ミサイルを使うようなものです」


「……」


「あなたは、もしカナと当たるなら、覚醒なんか忘れて、正々堂々と戦うことです。

 あのお方(ヽヽヽヽ)には、あなたが白状したとは言いませんから、安心なさい。

 私から後で忠告しておきます。

 ここから先は、大人の話し合いです」


「よろしくお願いします!」


「さあ、結界を解除します」


「ところで、決勝戦の組み合わせは、もう決まっているのですか?」



 マイコはイズミの問いには答えず、再び右腕を真横に上げた。


 すると、一瞬で緑の霧が晴れる。


 その直後、周囲が一斉に動き出し、騒音が押し寄せる。



 1秒後の世界に戻った二人は、何事もなかったかのように、互いに背を向けて歩み始めた。


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