49.煉獄
直径1メートルの火柱が、今度は無様な格好で倒れているユカリの体に沿って広がり始めた。
「うわっち! わっっち! っっっっっち!
や、や、やめろおおおおおおおおおおっ!!」
暴慢な態度以外見せたことがないユカリが、恐怖におののいた顔で助けを求める。
だが、イズミは能面のように無表情の顔をユカリに見せるだけ。
「て、てめー!!
これ以上やったら、本気で殺す!!」
「ついに本性を現したわね。
じゃあ、させないように、思い知らせてあげる」
「待て待て待て!!
こ、これは、言葉のあれ」
「綾」
「殺すのなし、なし!」
「どうだか。
魔法で暴力を振るう人、私、許せないので」
「な、何をする!!」
「その心を、こうして、浄化してあげるわ。
――煉獄!」
イズミは、さらに両腕に力を込めた。
すると、たちまち炎がユカリを包み込む。
「――――!!」
火だるまになり、のた打ち回るユカリ。
彼女の絶叫は、火炎の唸りにかき消される。
「――――!! ――――!!」
残酷な炎から逃れようと、四つん這いになり、蹌踉めきながら立ち上がる。
だが、猛火は、彼女にまとわりついて離れない。
「――――!! ――――!! ――――!!」
呼吸で肺の中も焼かれるのか、喉をかきむしる。
震える手が虚空をつかむ。
だが、その動作も、徐々に緩慢になっていく。
そしてついに、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ち、顔面から倒れ込んだ。
「そこまで!」
審判員マイコの右手が挙がった。
イズミは、直ちに魔方陣ごと炎を消し去る。
ユカリを包んでいた猛火も、同時に消えた。
もちろん、試合なので、イズミは炎を加減している。
相手に熱によるショックを与える程度で、焼け焦げる手前で止めているのだ。
それでもユカリの肌は、真夏の炎天下で日焼けになったかのように、真っ赤に腫れ上がった。
彼女は芝生に顔を伏せたまま、死んだように動かない。
マイコの10カウントが、シーンと静まり返った会場に響き渡る。
「9……、10……!
勝者、五潘イズミ!」
その瞬間、スタジアムでは歓声と怒号が轟いた。