48.地獄の大火
「させるかあああああぁ!!」
ユカリは、尻餅をついた体勢から素速く体を起こし、中腰の体勢に変えて、両腕を斜め上に突き出した。
たちまち、彼女の正面に薄緑色のガラスのような壁が出現する。
魔法攻撃の防御用のバリアだ。
バリアは、ひとりでに湾曲し、伏せたお椀のような形に変形して、彼女を包み込む。
その完了と同時に、イズミの魔方陣の行列が、バリアすれすれまで到達した。
「へん! お生憎様!
一歩遅かったな!
この魔法無効化障壁の前に、そんな魔方陣の束を突きつけても、ビクともしないぜ!」
「あら、そんなこと、どうして決めつけられるのかしら?」
「たりめーだろうが!」
「これでも?」
とその時、イズミとユカリとの間にある、二十枚以上の魔方陣が、白くキラキラと輝きながら、ゆっくりと回転を始めた。
幾何学模様と古代文字が複雑に組み合わされた魔方陣たちは、空中に光の軌跡を描き、実に幻想的な光景を見せる。
「な、何をする!?」
「これで終わりね。
――地獄の猛火」
イズミが略式の詠唱をすると、突き出した両腕の先から、炎が勢いよく噴射された。
その炎は、魔方陣の中心を通過する度に増幅されながら、1秒で標的へ迫る。
終端の魔方陣に到達した時には、魔方陣の直径に等しい太さの火柱になっていた。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
猛火が唸り声を上げ、バリヤの前面に激しく衝突する。
あまりの衝撃に、バリアが震え始めた。
ユカリの突き出す両腕もブルブルと震える。
「ぬおおおおおっ!!」
イズミは、ちょっと腕に力を入れる。
それだけでさらに激しさを増した炎は、バリアのお椀の形に沿って包み込む。
地獄の猛火は、勢いが衰える様子など全くない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
ピシッ……ピシッ……ピシッ……
バリアに亀裂が入ってきた。
「……ば、馬鹿な!!
…………ぐあああああっ!!」
ついに、バリアが粉々に砕け散る。
立ち塞がる物を無慈悲に打ち砕いた火柱は、獲物に飛びつく猛獣のように、ユカリをなぎ倒した。