47.炎に包まれた魔法少女
ユカリの見つめる先には、メラメラと燃える球状の炎が浮いていた。
大きさは、直径3メートルほど。
イズミを縛り上げた黒い鎖は、爆発とともに消滅したらしく、そこにはなかった。
ユカリの爆裂魔法は、花火やダイナマイトの爆発と一緒なので、火の粉が飛び散ることはあっても燃え続けることはない。
ということは、この炎は、明らかにイズミの物だ。
だが、彼女はどこにいる?
あの煉獄の炎の中心か?
十万以上の目が凝視する中、突然、ボウッと音がして炎の塊が膨らむ。
目撃者全員が息を飲んだ。
とその時、何かが弾けるような音がして、次の瞬間、炎が消えた。
その中心にいたのは、やはり、イズミ。
彼女は、両手のひらを真横に向け、両腕をピンと伸ばし、右足の膝を軽く曲げたポーズで宙に浮いている。
そして、目を半眼にして、ユカリを見下ろした。
「これが、自慢の爆裂魔法?
しかも、倍増したバージョン?」
「そ、そ、そ、そうだ……」
「ナディア・ラフマニノフを倒したときよりも、強いってこと?」
「あ、ああ……」
イズミは鼻で笑い、腕を組み、両足を肩幅に開いた。
「これのどこが?」
「て、てめー!
ど、どうして、ピンピンしている!?」
「えっ? 殺すつもりだったの?」
「い、いや、あれは言葉のあれで……」
「言葉の綾ね」
「そう、それそれ!」
「火炎魔法の遣い手が、火に弱くてどうするの?」
「あ……」
「あなたが球体を爆発させる直前に、こちらから全てを破壊したわよ」
「な、なにいいいいいっ!?」
ユカリは、再度、左腕をイズミの方へ突き出す。
すると、イズミの右肩付近に、輝く球体が数個出現した。
だが、イズミは、右手の人差し指で、次々と球体を突く。
たちまち、球体は爆発。
まるで、針で割られる風船玉のように、いとも簡単に。
爆風で髪がなびいても、彼女は涼しい顔をしている。
火傷すらしないのだ。
「何度やっても無駄よ。
あなたって、学習能力がないわね」
「う、嘘だろ……」
「さっきは、指を使わなくても、詠唱で爆破させたの。
相当自信があったみたいね、爆裂魔法に。
動揺が凄いから、すぐにわかるわよ」
「るせぇ!
さては、この試合のために、今まで手抜き試合をしてたな!?」
「この試合のために?
組み合わせはランダムでしょう?
なぜ、前の試合の段階で、私とあなたの取り組みがわかるのかしら?
あなたは知っていたの、この取り組みを?
もしかして、八百長?」
「い、いや、そ、それはない……。
それより、手抜きをしてたろ!?」
「手抜きって、うるさいわね……。
今も、適当に手を抜いているわよ」
「っ!」
「私の本当の相手は、あそこのダグアウトにいるわ。
今も、こっちを見ている。
彼女との決戦のために、私はマナをセーブする必要があるの」
「誰だ、そいつは!?」
「おそらく、ヤマト国最強の魔法少女よ」
「前置きなんかいい!! 誰なんだ!!??」
「ふー……。こんなに頭の悪い人、初めて。
消去法で、一人しかいないでしょう?」
「しょーきょほー? んだそれ?」
「救いようがないわ……。
じゃあ、あなたに頼まれた時間稼ぎは、ここまででいいかしら?」
「はあ? 急にどうした?」
「付き合いきれないの。
決着をつけるわよ。
いいかしら?」
「おー、おー、望むところだ――」
「じゃ、ロックオン」
腕組みをしていたイズミは、ユカリの方へ向かってスッと両腕を伸ばし、手のひらを向けた。
すると、手の先から、直径1メートルの輝く魔方陣が、次々といくつも出現する。
それらは、等間隔に整列しながら、ユカリの方へ急速に迫っていった。