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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会
45/188

45.拳の応酬

「両者、離れなさい!」


 審判員マイコが、ユカリとイズミの二人の肩に手を当てて引き離そうとする。


 だが、肩は少し動いたものの、鼻は磁石にでもなったかのように、くっついて離れない。


「試合の進行を妨害する者には、レッドカードを切ります!」



 このマイコの最後通告で、二人は睨み合ったまま後ろへ下がっていった。


 両者は、10メートルくらいの距離を取ったところで、一旦停止。


 ここでマイコの右腕が上がり、試合開始が宣言された。



 合図と同時に強化魔法を発動したイズミは、強化完了後、0.5秒でユカリとの間合いを詰めた。


 これは、彼女の得意な、瞬間移動。


 爆裂魔法を使わせないため、接近戦に持ち込む作戦なのだ。



 さきほど睨み付けたユカリの顔が、再度、眼前に迫る。


 堅く握った拳を振りかぶる。


 その刹那――、



「あっ!」



 短い叫び声を上げたイズミは、後方へ吹き飛んだ。


 空、客席、芝生、客席、空と、めまぐるしく視界の前を通り過ぎていく。


 何が起きたのか理解できない彼女は、これは自分が後転しているからだ、と理解したのは、芝生に伏して止まった時だった。


 みぞおち付近の強烈な痛みが、彼女の顔をみるみるうちに歪める。



「けっ! てめーの接近が早すぎて、思いっきり蹴られなかったぜ!

 ホントなら、向こうの結界まで吹き飛んだのによう!」



 蹴り終えた右足の魔方陣を消したユカリは、ゆっくりとその足を降ろして、仁王立ちの姿勢に戻った。


 彼女は、相手が弱いときは、試合中に一歩も動かず仁王立ちになる。


 今回も、立った位置から動かずに試合を進めるらしい。



 イズミは、腹を抱え、苦しい表情のまま立ち上がった。


 そして、わざと審判員へ聞こえるように大声を上げる。



「その蹴りは、危険行為ね!

 一般人にここまでやったら、背中から足が突き出るわよ!」


「たりめーだろ。一般人相手ならな。

 それがどーしたってんだ? ああん?

 てめー、魔法少女の端くれだろ?

 それとも、お願ーい、わたしー、一般人ですからー、手加減してよねー、ってか?」


 体をくねくねさせて、裏返った声を出すユカリは、仕舞いには腹を抱えて笑い出した。


 この状況で審判員が無反応なので、イズミはため息をつく。


「寸止めしないんだ」


「あん? 周りがうるさくて、聞こえねーよ」


「魔法を暴力として使うんだ!」


「てめーが、突っ込んできたからだろ?

 ぶつかっておいて、暴力だったあ、言いがかりじゃねーのか!」


「その魔法による前蹴りは、七身家(ななみけ)の護身術であることは知っているわよ。

 対人戦闘用に使う特別な奴よね?

 これ、人を殺せるわよね?」


「へん。体が勝手に動くのさ、飛びついてきた奴に対してはね」


「昨日も、その蹴りをナディア・ラフマニノフに使ったわよね?

 危険だとわかっていて!」


「ごちゃごちゃ言ってねーで、蹴られて悔しかったら、かかってこいよ!

 どんなパンチを繰り出しても、全て止めてやる!」


「審判員! ここまで魔法で攻撃しても、反則にならないのですか!?」


 イズミの厳しい問いかけに、マイコは首を縦に振る。


「今の、魔法を使った前蹴りには、あなたが先にぶつかっていきました。

 危険行為には当たりません」


「……そうですか」



 イズミは、頭を左右に振って、肩をすくめる。


 最初から計算され、見た目にわからないように偽装された反則行為。


 彼女は、ユカリの悪知恵に感心するとともに、これを利用しようと考えを巡らした。



「なに、突っ立ってんだよ?」


「考え事」


「ほー。素人の浅知恵って奴か。

 おっと、時間稼ぎにご協力感謝いたしまするー」


 ユカリは、胸の前で両手を合わせ、タイ王国風の挨拶に似せたポーズを取る。


「それ、意味わかっているのかしら?」


「しらねー。

 いちいちうるせーぜ、五潘家(ごはんけ)の奴らは。

 それより、よく考えな、攻略法でも」


「これしかないわね」


「どれどれ――」



 イズミは、再びユカリとの間合いを瞬時に詰めた。


 そして、目にもとまらぬ速さで、拳を繰り出す。



 渾身の力を込めた左右のストレート。


 マシンガンのようなジャブ。


 ローブローすれすれのパンチ。


 鋭いアッパー。



 ところが、彼女の拳の先には、常にユカリの手のひらがあった。


 魔法で強化されたパンチが、ことごとく止められる。


 一般人の世界チャンプよりも早い動きにもかかわらず、だ。


 しかも、ユカリは、立った位置から1ミリも動いていない。



 拳を止める二本の腕が、四本にも六本にも見えるユカリ。


 イズミは苛立ち、冷静さを失う。


 さらにスピードを上げて、パンチを連射。



 とその時、ユカリの右足の筋肉が動いた。


 イズミは、それが前蹴りであることに感づいたが、すでに遅かった。


 瞬きをする間もなく、みぞおち付近にその右足が移動。


 ほぼ同時に、足先に魔方陣が出現し、イズミの全身に強い衝撃が走る。



「ぐふっ!」



 ラッシュに紛れて一瞬に繰り出された、魔法による前蹴りは、先ほどよりも強い。


 イズミの全身は、山の低い放物線を描いて飛んでいく。


 そして、20メートル離れた芝の上を二、三度弾んで、仰向けになった。



 彼女は、仰向けのまま拳を芝に叩きつける。


 二度も同じ手を食らうのは、実に耐えがたい。



 吐き気を堪えながら、雪辱に燃えて彼女は立ち上がった。


 とその時、ユカリの方から、風を切る音とともに、細くて黒い何かが伸びてきた。


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