41.対戦予想
第二回戦の途中で昼休憩に入るはずが、あっけなく終わってしまう試合もあり、八試合全てが終わったところで、昼休憩になった。
午後は、準々決勝の四試合のみである。
主催者側とすれば、白熱した試合展開で予定通りに進行してくれた方が助かるのだが、こればかりはどうにもならない。
観客もあくびが出る始末で、主催者側は頭が痛い。
テレビの向こうでチャンネルを切り替えられていないだろうかと、大会本部では視聴率ばかり気にし始めていた。
その頃、カナはイズミと一緒に、テーブルを挟んで昼食を取っていた。
二人のメニューは同じで、ミックスサンドイッチとミニサラダとオレンジジュース。
カナが卵サンドを手に取ると、イズミも卵サンドを取る。
ツナサンドを取ると、イズミも同じものを取る。
ジュースを飲むタイミングまで一緒だ。
偶然なのだが、二人はそれだけで笑い転げた。
「そういえば、私、催眠魔法をかけられたとき、どうなっていたの?」
「ああ、あれ?
バタンと倒れて、それからずっと、動かなくなったわ」
「その間に、ミヤビさんが他の魔法で攻撃すれば――」
「無理よ。催眠魔法をかけ続けているから、彼女も動けない。
実際、ずっと目を閉じて立ちっぱなしだったから。
あなたが立ち上がったとき、腰が抜けたように座り込んだわよ」
「そうだったんだ。
私、凄く長い夢を見させられていたの。
実際は、どうだったの? 長い時間だったの?」
「全然。30秒くらい。
あの審判員、ゆっくりゆっくり歩いてきて、10カウントを始めたわ。
そういう人みたいね。
倒れた方にしてみれば、少し有利かも」
「へー」
「長い夢って、実際は短時間なの。そこだけ、時空が違うみたいに。
これを応用して、周囲の時間をゆっくり動かしたかのように見せる魔法もあるわよ。
そういえば、時間を操る選手が準々決勝に進んだわね」
「誰?」
「あなた、まだ選手のプロフィールを頭に入れていないの?
マリアンヌ・ロパルツ。
最後の試合に、右足が義足の選手がいたでしょ?
彼女が時間を操るのよ」
「……」
「彼女は、昨年、ユカリとの準決勝で大怪我をしたのを知っているわよね?
あ、あまりそういうの、感心ないかしら?
その時に爆裂魔法で右足を失ったから、今大会は、復讐に燃えているわよ」
その言葉に、カナは、思い出したくない記憶が蘇ってきた。
テレビでは、マコトの試合以外は見なかったので、実際の映像はネットニュースでしか見ていないが、あれはショックだった。
自分の爆裂魔法まで怖くなったのは、その時からだ。
「そうなんだ……」
「戦う相手は、ユカリオンリー。
他の選手たちのことなんか、眼中にない。邪魔者扱い。
さっきだって、瞬殺だったでしょう?
魔法と言うより暴力よ、あれは。
これじゃ、魔法少女の評判を落とすだけ!」
「イズミ、ちょっと落ち着いて」
「ごめんなさい。つい……。
二回戦で、ヤマト国からあなたと私とユカリの三人が残り、他の国は五人残ったわよね?
次の準々決勝で、さらにヤマト国の潰し合いがあるわ。
だって、そうしないと、最悪、ヤマト国三人で他は一人になり、世界中がチャンネルを回すから」
「抽選はランダム――じゃなくて、細工しているんだっけ。
だったら、そうかも」
「おそらく、マリアンヌ・ロパルツとユカリを次の試合で組ませるはずよ。
だって、これ以上怪我人が出るとまずいから。
そして、ヤマト国は――」
「……(ゴクリ)」
「あなたと私ね」
「!!」
「もしくは――」
「もしくは?」
「ユカリと私」
「マリアンヌさんは誰と?」
「あなたと」
「!!」
「彼女の暴力を止められるのは、私たちヤマト国の三人しかいないわ」
「そうしたら、イズミとマリアンヌさんとの組み合わせは?」
「準々決勝ではないわ。
だって――」
「だって?」
「ユカリがあなたに準々決勝で負けたら、この大会がしらけるから」
「!!!」
「なんか、予想通りの抽選になりそうで、笑えるわ。
ランダムに見せかけておいて、抽選箱の中身は、もう細工されているはずよ。
それより、向こうで作戦会議しない?」
イズミは、食堂の扉を指さす。
外で行おうということらしい。
カナは、コクリと頷いて、残りのサンドイッチを頬張った。