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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会
40/188

40.幻影世界からの脱出

 全く光のない世界。


 風も感じない。音すら聞こえない。


 しかし、カナは、こんな闇の中でも慌てなかった。



(おそらく、今まで見せられていたのは、全て幻影。

 これもそうかも知れない。

 ならば、近くに現実があるはず。

 必ずある!)



 彼女は目をつぶり、呼吸を止める。


 幻影は、視覚から来る。


 ならば、その視覚を封じて聴覚に集中すれば、何かわかるはず。



 すると、微かに音が聞こえてきた。



「……ックス」



 音と言うより、人の声だ。



(結界の中にいるのは、ミヤビさんと審判員のみ。

 その時、間近に声をかけるのは、誰?

 相手選手のミヤビさんが、そばで声をかける?

 おそらく、それはないはず)



「……ブン」



 ックス? ブン?


 ックス、ブン、


 審判員の声だとすると……、


 シックス! セブン!



(そっか! カウント中!

 起きて!! 今すぐ!!)



 カナは、沈んだ水底から浮き上がるような気分で、目を覚まそうともがいた。


 すると、目の前に光が見えてきた。


 目の焦点が合わないのではっきりしないが、誰かが覗き込んでいるように見える。



(エイト)……」



 無我夢中のカナは、上体を起こした。


 頭がひどく重くて、ふらつく。


 熟睡しているところを、たたき起こされたような気分。



 それでも、手足をばたつかせながら、カナは何とか立ち上がる。



(ナイン)……」



 カナは、審判員の目を見つめ、試合続行の意思を示す。


 足下のふらつきは、何とか隠せた。


 審判員は、選手の足下も確認した。



「ファイト!」


「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!」



 審判員のかけ声に、観客が大きくどよめいた。


 そして、割れんばかりの拍手。



 カナは、ミヤビを捜す。


 すると、10メートル離れたところに、ミヤビが座り込んでいるのが見えた。


 カナは警戒して、半身の体勢で構えた。



 ところが、ミヤビは、肩をすくめて苦笑する。


 そして、右手を高く上げた。



「ギブアッープ!!

 カナの勝ちにゃ!」



 審判員は、ミヤビのギブアップを確認し、勝者がカナであることを宣言する。



 爆発するカナコール。


 彼女は、歓声に包まれながら座り込んだ。


 どっと疲労感に襲われたのもあるが、緊張感から解き放たれたことの方が大きい。



 ミヤビが立ち上がった。


 そして、笑顔でカナに近づきながら、右手を差し出した。


 カナはその手を取って、腰を上げる。



「よくミヤビの世界から戻って来れたにゃ?」


「なんとかね。

 あれって、幻影魔法?」


「似ているけど、違うにゃ」


「違う?」


「正確には、催眠魔法にゃ。

 相手を金縛りにして眠らせ、用意した夢の世界へ引き込むにゃ」


「そうだったんだ」


「それから、夢に忍び込んで、ちょっかいを出す。

 なかなか夢から抜けられないうちに、10(テン)カウントを迎える。

 うまくいけば、これで勝てたのにゃ」


「全部、夢だったの?」


「そうにゃ」


「でも、雷撃魔法を使ったわよ」


「使った夢を見ただけにゃ」


「イズミに化けたあなたを倒したけど」


「それも夢。

 イズミに化けてから、ぼろが出て正体がばれるまでは、こっちのちょっかい。

 他は、全部夢にゃ」


「でも、ギブアップしたのは?」


「この魔法は、マナをたくさん使うから、あそこまでで限界にゃ。

 ところで、右手の雷撃魔法、それはセーブモードかにゃ?」


「まあ、そうね」


「左手の雷撃魔法が、本気モード?」


「そうよ」


「ふふん。決勝戦でイズミを倒すときに使うのかにゃ?」


「なぜ、イズミと決勝戦なの?

 イズミも同じようなことを言っていたけど」


「謹慎中の九家(じゅうまえけ)の魔女の中に、予言者がいてにゃ。

 決勝戦の組み合わせが予言されているのにゃ」


「ユカリさんもいるでしょ?」


「ユカリ? イズミの前じゃ、吠えるだけの弱い犬も同然にゃ。

 この大会で、めっちゃ強いのが四人いるにゃ。

 イズミ、カナ、それと、右足が金属製の義足の少女と車椅子の少女」


「義足? 車椅子?」



 カナは、ハッとした。


 昨日、通路でそのような二人を見かけた。


 後ろ姿しか覚えていないが、あの二人のことだろう。



「残りの試合、きーつけるにゃ。

 イズミに当たる前に、きっと――」


 ミヤビは急に真顔になった。


「地獄を見るにゃ」



 カナは、一瞬ゾクッとしたが、すぐに平静さを取り戻した。


 再びミヤビは、ニヤッと笑う。


 そして、カナに背中を向け、右手をひらひらさせながら去って行った。


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