4.姉妹の応援
「カナお姉様! イリヤは、いつでもどこでも応援をしています!」
身長135センチメートルで、銀髪ツインテール、灼眼の女の子が、ベッドの上に腰を投げ出して大きく弾む。
彼女は、蜂乗イリヤ。小学五年生。11歳。
顔立ちは、カナによく似ている。
二、三度腰を浮かせながらカナに近づくと、カナの左手を抱き枕のように両腕でしがみつく。
そして、腕に頬ずりをするのは、いつものこと。
イリヤはいつも、こうやって体重を乗せてくるので、カナは肘の関節が痛い。
でも、憎めない。
全身で愛情表現をしてくる、守りたい存在だからだ。
「イリヤ、ありがとう。お姉ちゃんは、代表で大丈夫だと思う?」
「それは、もちろん!!」
「あらあら。蚤の心臓のカナ、はっけーん」
160センチメートルのスレンダーな体を壁に立てかけるようにして腕を組んでいた女の子が、軽く弾みをつけて歩み出した。
彼女は、蜂乗ミナ。高校二年生。17歳。
カナを面長にしたような顔立ち。
普段から糸のように細い目をさらに細めてカナを見つめる彼女は、桜色の唇がほころぶ。
桃色のセミロングと、左右の毛先に結ばれた2つの緑のリボンが揺れる。
「私も混ぜてくれるかしら?」
「もちろんです、姉さん。僕のアドバイスだけでは、駄目みたい。カナに、しっかり言い聞かせて――」
「いいえ。カナは、マナが足りないみたい。それが、弱気を誘うの。
バッグの中に、回復用のマナ補充機があるけれど、今使ってはもったいないわ。
今から私が回復してあげる」
ミナは、両手のひらをカナの方へ突き出し、短い詠唱をした。
と同時に、マコトとイリヤは、カナから離れた。
すると、カナの全身が円筒状の、柔らかな緑色の光に包まれる。
円筒状の表面に、金色に輝く無数の古代文字が、螺旋の軌跡を描いて上っていく。
周囲には、無数の金粉のような物が浮遊し、大きく輝いては小さくなる点滅を繰り返す。
やがて、緑色の光は古代文字とともに消え去った。
「お姉様、ありがとうございました。全身に力が溢れるようです」
「良かったわ。
私は回復系、マコトは魔法よりは剣術、イリヤは召還系。
これでは、あの七身ユカリさんには勝てないわ。
カナは、爆裂魔法に、雷撃、火炎、破壊魔法まであるから、思いっきりぶつけなさい。
今年から年齢制限が下がって、私たち蜂乗家が有利になったのだから」
「はい!」
プウウウウウ……プウウウウウ……プウウウウウ……
「おっと、端末のアラームが。……チェックアウトの時間だな。カナ、僕たちも手伝おうか?」
「あらあら。過保護なマコト、はっけーん」
「はいはい、姉さん。次は、カナの夫、はっけーん、でしょう?」
「ブッ、ブー。カナの執事、はっけーん、よ」
カナは、プッと吹き出す。
彼女は、緊張をほぐしてくれた姉妹に、感謝で胸が一杯になっていた。
(勝たなきゃ。お姉様のためにも、妹のためにも――)
とその時、カナの背筋に冷たい物が走り、四肢の血の気が引いた。
もう一人の家族、世界三大魔女と呼ばれる母親マイコの冷酷な顔が、頭をかすめたのだ。
昨年、七身ユカリに決勝戦で負けたマコトは、マイコから平手打ちを八発食らった。
『この蜂乗家の恥さらしが!!』
その叱責を、昨日の出来事のように思い出すカナ。
青ざめた彼女は、震えが止まらなくなった。