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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会
36/188

36.分身の攻撃

 ミヤビは、カナに突きつけた人差し指を動かさなかった。


 この仕草が何かの暗示をかけていると思ったカナは、ミヤビを半眼で睨みつつ、彼女の指を左手で軽く払いのけた。



「それ以上、人に指を差すのは、失礼です」


「ありゃりゃー。ノリの悪い子にゃん。あっち向けほいのつもりにゃ」


「違うでしょ」


「ふふん。やっぱ、バレバレにゃ……。

 しっかし、目をそらさず、真っ向勝負を挑むその態度。

 素人のくせに、(にゃま)意気にゃ。

 腹立つぅ――けど、いちお、受けて立つにゃん」


 ミヤビはそう言うと、カナへグイッと顔を近づけた。


「引き裂くには、惜しい相手にゃ」



 彼女は、不気味な笑いを残して、スキップしながらカナの横を通っていく。


 こぶしを堅く握るカナは、振り返らない。



 突如、スタンドに巻き起こるミヤビコールが、ダグアウトの中の空気をも揺らす。


 さらにこぶしを握りしめたカナは、イズミの熱い視線を背に受けながら、ミヤビの後を追った。



 グラウンドの中心で、両者は10メートルの距離を置いて向かい合った。


 そこへ近づいてきたのは、カナとスヴェトラーナとの試合で審判員を務めた人物。



 カナは、一瞬、横へ目だけを向ける。


 まさか、スヴェトラーナの(かたき)をここで討つために、自分に不利な判定をしないだろうか。


 彼女の猜疑心は、強くなる一方だった。



 試合開始。



 とその時、ミヤビが真横を向いた。


 しかし、カナはその手に乗らない。


 ミヤビは、ニヤニヤしながら正面へ向き直った。



「にゃあんだ。

 前の試合と同じ手にひっかかるほど、ど阿呆じゃにゃいにゃ。

 にゃら、始めるかにゃ。

 ――分身(レプリケーション)!」



 ミヤビが略式の詠唱を行うと、彼女の右横に、寸分違わぬ容姿の人物が現れた。


 髪の乱れ方や、服のしわまでそっくりに見える。


 鏡がそこにあるかのようだ。



「準備運動にゃ」



 ミヤビが左右のストレートパンチを繰り出すと、分身も、同期するかのように全く同じスピードでパンチを繰り出す。


 目にもとまらぬ速さでジャブを連発すると、分身もそっくりの動きをする。


 頭の高さまで足を上げての回し蹴りも、完璧に追随する。


 ただし、さきほど「準備運動にゃ」と声を出したのは本人のみで、分身は無言である。



「ふふん。恐れ入ったという顔をしているにゃ。

 これは、幻影魔法じゃにゃいから、安心しにゃ。

 そっくりさんにゃ。

 このそっくりさんが、今から攻撃するにゃ。

 スタンドと呼ぶ奴もおるにゃ」



 カナは、ミヤビがまだ攻撃してこない隙に、無詠唱で防御魔法と強化魔法を発動する。


 昨夜、ミナから教わった秘伝の魔法だ。


 これで彼女の肉体は、重い鎧を纏ったように剣でも傷つかず、さらに通常の3倍の速さで動ける状態になっていた。



 明け方まで一人特訓し、ようやくこれを習得できたのだが、それをいきなり本番で使用するほど、彼女は度胸が据わっていたのである。


 つい先日まで、おどおどして弱気だったカナは、もうここにはいない。



 ミヤビは、首を傾げた。


 すると、分身まで首を傾げる。



「おやー? 雰囲気が変わったにゃ。

 ……そっか! 大方、強化魔法でも使ったにゃ?

 でも、このそっくりさん、そんにゃ魔法は――」



 ミヤビが言い終わらないうちに、分身が矢のような速さでカナへ突進してきた。


 だが、3メートルほど近づいたところで、フッと姿が消えた。



(後ろから来る!)



 背中に殺気を感じたカナは、体を時計周りに少し回転させ、右腕をL字に曲げて頭を防御する。


 その腕へ、背後に回った分身の回し蹴りが炸裂。


 ズシリとくる衝撃に、カナはふらつくも、辛うじて耐えた。



 まるで、拳法の演技でも見ているかのような動き。


 しかし、カナは相手の動きが見えていたわけではない。


 分身が練習で見せた回し蹴りが印象的だったことと、背後から一撃で倒すなら回し蹴り、という予想から導き出された結果だ。



 分身の足が、視界から消えた。


 あの回し蹴りからの接近戦はない。


 分身は後ろ。


 ならば、足蹴りが、角度を変えて繰り出される。



(次は、左!)



 彼女の直感が、体を反時計周りに少し回転させる。


 そして、左腕をL字に曲げ、頭を防御する。


 そこへ、予想通りの回し蹴りが襲ってきた。



 丸太で殴られるような強い衝撃。


 身体を強化していなければ、腕の骨が折れていたかも知れない。


 だが、カナは倒れなかった。



(反撃!)



 カナは、時計回りに腰を回転しながら、右足を振って蹴りを入れる。


 想定通り、そこに分身の右脇腹があった。



 回し蹴りの直後で無防備なところへ、反撃の足蹴りがまともに入る。


 ドスッという鈍い音がして、分身が少し膝を折った。



 カナは、そこへ素速く前蹴りを繰り出す。


 鈍い音がして、十分な手応えが足に伝わった。


 蹴りを食らった分身は、体をくの字にして蹌踉めくも、倒れない。



(分身を倒しても、10(テン)カウントにならないはず!)



 カナは、本体への攻撃に切り替えるため、後ろを振り向いた。


 とその時、ミヤビが体をくの字からまっすぐに伸ばしているところが見えた。



 謎が解けた時のような、爽快感が頭に広がる。



(わかった!)



 カナは、ミヤビに向かって突進した。


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