35.余裕綽々な対戦相手
ミヤビは、なおもカナへ射貫くような視線を向けている。
だが、カナも負けてはいない。
彼女は視線をそらさなかった。
すると、ミヤビは「疲れたにゃ」と視線を切って、再び頭を横にして目を閉じた。
それから試合開始のファンファーレが鳴っても、彼女は起きなかった。
カナは眠り猫のことなど横に置いて、これから始まるイズミの試合に、声援を送る。
第一試合は、イズミとヤマト国の選手の試合で、イズミは手堅く勝ちを収めた。
誰が見ても楽勝である。
カナの周囲にいる選手は、口々に『イズミの手抜き』と言う。
確かに、カナの目にも、魔力を半分も使っていないように見えた。
第二試合は、ユカリとスヴェリエ王国の選手の試合で、当然のことながらユカリの圧勝。
彼女の場合、魔法は暴力行為に等しい。
相手の選手は魔法を繰り出すための詠唱の時間を与えられず、爆裂魔法の直撃でボロボロになり、崩れるように倒れた。
これは試合ではない。
あんな危険な魔法を、至近距離で使用すると、一歩間違えれば相手を殺してしまう。
ユカリの高笑いに、カナは怒りで体が震えた。
第三試合は、ウェールズ王国とフランク王国の魔法少女の試合だが、カナはさほど関心はなかった。
むしろ、ずっと眠ったままのミヤビが気になってしょうがない。
こうも騒々しい中で、よく眠れるものだ。
時々、ビクンとするが、実際は完全に夢の中だろう。
いよいよ、昼休憩前の最後の試合、第四試合の開始である。
カナ対ミヤビ。
第三試合がまばらな拍手で終わったのに対し、待っていましたとばかり、スタジアムが異様な盛り上がりを見せる。
「ミ・ヤ・ビ!! ミ・ヤ・ビ!! ミ・ヤ・ビ!! ミ・ヤ・ビ!!」
「カ・ア・ナ!! カ・ア・ナ!! カ・ア・ナ!! カ・ア・ナ!!」
カナは、自分の両頬を両手でパンパンと叩いて、気合いを入れる。
だが、ミヤビの方は、ベンチの上で寝転がったままだ。
こちらが恥ずかしくなるほど、スカートの中を見せている。
カナが起こそうと立ち上がると、先にイズミが駆け寄ってミヤビの体を揺すった。
「ミヤビさん! 試合が始まりますよ!」
「ふにゃ?」
ミヤビは、片目を半分開けた。
「ほら、起きて!」
「ふにゃにゃ!?」
今度は、両目を半分開けた。
「さあ、急いで!」
「そんにゃに急いで、どこへ行くにゃん?」
ミヤビは天井を向いて、口の上で右手を上下させて「ふわわわぁ」を大あくびをする。
ふざけているのかと、カナは少しイラッとした。
「どこって、グラウンドです!」
「イズミちゃんは、怖いお母さんみたいにゃ。
仕方ないにゃあ……。
よっこらしょうぶはミヤビのかちー」
ようやく、ミヤビが起き上がった。
カナは、彼女の言葉にムッとする。
とその時、ミヤビと視線が合って、急に足がすくんだ。
先ほどとは違う、強烈な視線。
ジッと見つめていると、瞳孔の中に体が吸い込まれそう。
蛇に睨まれた蛙もこうなのだろうか。
「ふふん。簡単に幻影魔法がかかる素人の目をしているにゃ。
もし発狂したら、かわいそうにゃ。
安心しにゃ、幻影魔法は使わにゃいから」
そう言うとミヤビは立ち上がり、つかつかとカナの方へ歩み寄ってきた。
背丈は、カナより頭一つ分低い。
その彼女が、右手の人差し指をビシッとカナの鼻先へ向ける。
「覚悟はいいかにゃ?
グラウンドで、ちびらないかにゃ?
にゃんこパンチだけで、沈めてあ・げ・る・にゃん♪」