34.第二回戦
ホテルに戻ったカナは、イリヤの祝福を全身で受け止めた。
飛びつかれ、抱きしめられ、頬にキスされと、派手な祝福ぶりだ。
彼女にしてみると、いつものイリヤなのでそれほど驚かないが、やはりキスをされると首筋がむずがゆい。
一方、マコトからは冷静な分析に基づくアドバイスを受け、ミナからは優しいフォローを受けた。
昨日までの彼女なら、姉たちの言葉のオブラートをはがして、厳しい忠告としてビクビクしながら受け止めていたであろう。
だが、今は素直に受け止めて、自分の糧にしようと努めていた。
ミナは、そのようなカナの心境の変化を感じ取り、やはり試合に参加させてよかったと満足そうに頷いていた。
「カナ。そういえば、また取り組みが抽選になるの、知ってる?」
「姉さん、それ本当ですか!?」
「あら、なんで、マコトが返事するの?」
「いえ……」
「ミナお姉様。帰り際に、スタッフさんから聞きました」
「それで、カナお姉様がアンドロイドに捕まっていたのですね」
「なんでも、ヤマト国の魔法少女同士の取り組みを増やして、残る人数を半分にしたいんですって」
「姉さん。抽選なら、逆にヤマト国が有利になりはしませんか? 全員がバラバラになれば――」
「それがね。噂なのだけれど、操作された抽選らしいの。だから半分になるの」
「ひどいなぁ! ……でも、その情報源、どこですか?」
「うふふ、おしえなーい」
「姉さん! 言っておきながら、ずるいです!」
「イリヤもそう思います!」
カナは、なんとなく、情報源が母親のような気がしていた。
かねてから、七身家主催の本大会に対して「営利目的」と批判的だったマイコは、ヤマト国の体面から渋々参加を表明した経緯がある。
なので、裏の情報をこっそりミナに流している可能性は否定できない。
なお、ミナの使い魔である白フクロウのハカセが、大会委員会の部屋に潜入して聞き耳を立てていた可能性もある。
しかし、屈指の魔女たち相手に、それを成し遂げるのは至難の業だ。
翌日、またカナたちは、自動運転車でスタジアムまで乗り付け、記者に取り囲まれる。
でも、一度経験しているので、交わすのは容易だった。
入場の際にアンドロイドから受ける検査は、昨日と全く同じで、手順まで完璧に覚えられた。
ドキドキしながら入る更衣室は、誰もいなかった。
カナは、ホッとしつつも、急いで着替えてダグアウトへと走る。
廊下まで聞こえてくる観客の声援まで、昨日と一緒だ。
声援を浴びると、不思議と力が漲る。
観客まで味方につければ、怖いものなしだ。
ダグアウトに到着すると、首を長くしていたイズミが笑顔で手を振る。
いつもの真剣な顔ではないので、カナはちょっと拍子抜けした。
「ねえ。あなたの対戦相手が決まったわよ」
「誰?」
「そこに寝ている子」
「えっ?」
イズミが指さす先に、ベンチの上で丸くなって寝転がる少女がいた。
丸顔で緑髪のショートヘア。よく見ると、猫耳のヘアバンドをしている。
セーラー服は、青色の襟と青色のミニスカート姿。
寝転がってカナの方へ尻を向けているので、スカートの中が丸見えだ。
「四石ミヤビさーん。
あなたのお相手の蜂乗カナさんが来たわよ」
「ふにゃ?」
少女は、名前を呼ばれてちょっとだけ顔を上げた。
返事は腑抜けているが、カッと見開いた碧眼の視線がカナを射貫く。
それは、カナの肝を冷やすのに十分だった。
「四石ミヤビさん。よ、よろしくお願いします」
「ふーん。手加減して欲しいかにゃ?」
「え?」
「耳が遠いのかにゃ?
手加減して欲しいかと聞いてるにゃ」
「いいえ」
「ふん。大きく出たにゃ。
昨日の基本的にゃ幻影魔法も交わせにゃい素人が、よー言ったにゃ。
そんにゃ相手は、にゃんこパンチで十分にゃ」
その時、イズミがカナの耳元で囁いた。
「ミヤビさんの十八番は、幻影魔法よ。
おそらく、今回の出場選手の中で、ピカイチかも」
カナは、自分の血の気がサーッと音を立てて引いていくのを感じていた。