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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会
33/188

33.一回戦終了

 その後、トイレに行ったはずのカナが、なかなか戻ってこない。


 心配になったリンとイズミが探しに行くと、通路の途中で、体育座りをしながら膝頭に額をつけている彼女を発見。


 幾筋も涙が流れる彼女の頬を見たイズミは、何が起きたのか、すぐに想像できた。



「医務室へ行ったのね?」


「……」


「ナディアに会ったのね?」


「……会っていない」


「そっか。会えなかったのね」


「……うん」


「元気になったら、会えるわよ」


「ううん、会えないと思う」


「ここは冷えるから、向こうへ行かない?」


「……一人にさせて」


「行きましょう? ねっ?」


「一人にさせて。お願い」


「……わかった」


「ごめんなさい」



 それから、カナがダグアウトへ戻ってきたのは、三試合目の終わり頃。


 彼女は、グラウンドの方へ目を向けているが、心ここに在らずといった体で座っている。


 リンは、長時間この世界に顕現できないので、後はイズミに任せて煙のように消えた。



 イズミは、ソッとしておくのが得策と思って、一切声をかけなかった。


 ――何があったかは、想像できるが、詮索しないでおこう。


 ――相手から声をかけてくるのを待とう。


 彼女は、横目でカナの様子を窺いつつ、他の選手の戦いぶりを観察して、分析結果を頭に叩き込んだ。



 励ます時も、いつもならきつい一言を口にする彼女だが、この時ばかりはそれを封印した。


 時々、声をかけてみる。


 返事がなくても、返事を強要しない。



 食堂での昼休憩は、肩を寄せ合うように着席して一緒に食事を取る。


 世間話で気を紛らす。


 気になる話題を振ってみる。



 そのおかげで、カナは徐々に心を開いていった。


 食事が終わる頃は、互いに冗談を言い合えるまでになっていた。



 この時、イズミは気づいた。


 カナへの接し方で、自分も少しずつ変わってきたことを。


 硬い表情が、自然な表情になっていくことも。


 素直に笑顔を見せられることも。



 その後、一回戦の試合は盛り上がりを見せながら進んでいった。


 予定の十六試合は、大きな時間延長もなく、無事に終了した。


 ヤマト国の魔法少女は八名中五名が、それ以外の魔法少女は二十四名中十一名が勝ち残った。



 ほぼ1対2の比率だが、もしこれがヤマト国八名、それ以外八名の1対1だったら、開催国優位の興ざめな大会になっていたに違いない。


 たった三名の違いだが、これは大きかった。


 翌日は二回戦八試合と準々決勝四試合が、翌々日は準決勝二試合と三位決定戦、決勝、そして上位四人によるエキシビションが行われる。



 初日の全試合終了後、カナは意を決して、医務室に足を運んだ。


 だが、ナディアもスヴェトラーナも姿はなかった。


 白衣の女性の話によると、二人とも帰国の途についたとのことだった。


 彼女は、ずり落ちる眼鏡を直しながら、伝言を口にした。



「来年、リベンジで参加するから、ヤマト国の言葉で『首を洗って待っていなさい』ですって」


「首を洗う?」


「単に、覚えていなさい、ってことよ」


「そうですか」


「首がどうのって、本気にしないの」


「わかっています」



 そう言って微笑むカナを見て、イズミは安堵の胸をなで下ろした。


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