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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会
32/188

32.試合後

 ここは、蜂乗家(はちじょうけ)の貴賓席。


 グラウンドを見つめるマコトとイリヤは、すっかり、しらけムードになっていた。



「あらあら、浮かない顔のマコト、はっけーん」


「姉さん。当然です。

 せっかく、カナが勝利したのに、いかにも違反行為の失格で勝ったかのような雰囲気になって」


「マコトお姉様。イリヤもそう思います。お母様のお言葉、とっても残念です」


過熱(ヒートアップ)する選手の頭を冷やすためよ」


「でも――」


「そんなの、控室でやればいいのですわ」


「では、ここで、もんだーい。

 カナは勝利したけれど、快心の勝利だったと思う人!」


「そう言われると――」


「いいえ。イリヤは、カナお姉様は頑張ったと思います」


「選手は、みんな頑張っています。それは、快心の勝利と関係ありません。

 マコトはやっぱり、納得していないわよね?」


「まあ、おっしゃる快心の勝利ではないですね。

 使い魔のリンがいなかったら、おそらく――」


「マコトお姉様まで……。チームワークの勝利です! 快心もなにも、勝ちは勝ちです!」


「今回は、カナにいろいろ学んでもらうために出場してもらいました。

 得るものがあれば、負けてもいいと思います」


「そこまでは――」


「ミナお姉様! それはあんまりだと思います!

 優勝を信じて、みんなで応援しましょう!

 それが……、それが……、家族というものではありませんか?」


「イリヤ、泣かないの。

 負けて欲しいとは言っていないわ。

 もちろん、カナには勝って欲しい。

 でも、リンの力で優勝するのなら、カナを二度とこの選手権には出場させません」


「わかるよね、イリヤ?」


「はい……。それはリンが優勝するってことですよね。

 でも、信じて欲しいのです!

 カナお姉様は、必ず、ご自分の魔法で勝利します!」



 涙声のイリヤに、ミナとマコトは頷いた。


 そして、二人は、グラウンドから笑顔で去って行くカナよりも、宙に浮きながら腕組みをするリンを見つめていた。



   ◇◆◇■□■◇◆◇



 ここはスタジアムの医務室前。


 カナは、道に迷いながらも、ようやくたどり着いた。


 トイレは口実。


 行き先は最初から、ここであった。



 引き戸の取っ手に手をかける。


 その体勢で立ち尽くす。


 ソッと手が離れる。



 もう一度、取っ手に手をかける。


 指先に力を入れる。


 また手が離れる。



 と突然、引き戸がガラリと開いた。


 ギョッとしたカナは、反射的に後ずさりし、足がもつれ、尻餅をついてしまった。


 部屋の中から開けたのは、ナースキャップを被った白衣姿の女性。


 だが、顔つきで一目でわかる、アンドロイドだ。



 アンドロイドは、目だけ左右へ、次に下へ動かして、カナを視認する。


 そして、驚いた様子を微塵も見せず、「どうぞ、お入りください」と言う。


 この機械的な動きは、プログラムに組まれた動作をしているのだろう。


 カナは、そう納得して立ち上がり、医務室へ足を踏み入れた。



 消毒薬の臭いや、湿布薬のような臭い。


 雑然とした薬品棚と書類棚。


 右のデスクには、乱雑に積まれた書類。


 あらぬ方向を向いた椅子。



 室内を見渡すカナは、左側に仕切りの白いカーテンを見つけた。


 それは、学校の保健室によくあるもの。


 おそらく、向こうにベッドがあるに違いない。



 よく見ると、カーテンの向こうが、少し明るい。


 うっすらとだが、複数人の人影が見える。


 鼓動が高鳴るカナは、その人影に、ナディアやスヴェトラーナを捜す。



 カーテンが揺らめいた。


 カナの心臓がズキンと痛む。


 だが、中から顔を覗かせたのは、白衣の女性だった。



 丸顔で無帽。


 茶色のショートボブに、アンダーリムの赤い眼鏡。


 首から下げた聴診器が揺れている。



 どちらから声をかけて良いのか、迷っているかのように、互いが見つめ合う。


 口火を切ったのは、女性の方だった。



「怪我したの?」


「い、いいえ……」


「だったら、お見舞い?」


「え、……ええ」


「無理よ、マナを補充中だから。

 ……しっかし、派手に消費したわね、二人とも。

 それとも、抜き取られたのかしら?」


「!!」


「そうそう。最初に担ぎ込まれた子が言っていたわ。

 誰か見舞いに来ても、スヴェトラーナ以外は追い返して、って」


「……」



 急に視界が滲んだカナは、素速く背を向け、両手で顔を押さえながら走り去った。



   ◇◆◇■□■◇◆◇


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