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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会
31/188

31.辛うじて勝利

 審判員がカナの勝利を宣言するのと同時に、蜂乗(はちじょう)マイコがグラウンドへ飛び出した。


 勝利の喜びに酔いしれていたカナは、マイコが小走りに自分の方へ近づいてくるので、心臓が跳ね上がるほど驚いた。


 一瞬にして正気に戻った彼女は、背筋にも四肢にも、冷たい物がサーッと走っていく。



 審判員でもあり母親でもあるマイコが、自分の娘の勝利を祝いに来るはずがない。


 むしろ、娘の不甲斐ない試合ぶりに、公衆の面前で平手打ちを食らわすに違いない。


 誰が見ても、使い魔のリンが試合を決めたようなものだから。



 でも、そこまでするだろうか。



 カナは、これから自分の身の上に起こるであろう最悪の事態を思い描き、破り捨てる。


 これを、何度も繰り返す。



 全身が小刻みに震える彼女は、近づいてくる母親の顔の表情を読み取ろうと懸命になった。


 カナの笑顔はとうに消え、引きつった顔が、全世界に放映されている。


 だが、彼女はそれを取り繕うことなど、頭になかった。



 3メートルほど近づいたマイコは、ピタリと立ち止まり、口を大きく開けた。


 それが叱責に思えたカナは、思わず目を半分つぶって、首を引っ込める。


 そこへ、マイコの凜とした声が、耳を叩いた。



「スヴェトラーナ・グリンカ選手は、幻影魔法を使いましたね!?」



 想定外の質問に耳を疑い、あっけに取られるカナ。


 彼女の耳から、ざわめきが消え、審判員マイコの質問が頭の中で鳴り響く。


 助けを求めるため、宙に浮いているリンの方へ視線を向けるも、リンは腕組みをしたままだ。



「ねえ、リン――」


「かけられたあんたが答えるべきよ。他に幻影を見ている者はいないんだから」


「あれは、幻影だったよね――」


「犬のサイズが象のサイズに見えたのでしょう? 稲妻が通過したのでしょう?

 聞くまでもないじゃない」



 突き放されたカナは、自分を見つめる母親の顔が怖いので、「はい……」と蚊の鳴くような声で答える。


 だが、観客のざわめきの中では、マイコの耳には届かない。



「もう一度聞きます! スヴェトラーナ・グリンカ選手は、幻影魔法を使いましたね!? 事前の申告がない幻影魔法を使うことは、ルール違反です!」



 この質問で、カナは、マイコの言わんとすることがはっきりとわかった。


 今度は、「はい!」と力強く答える。


 マイコは軽く頷くと、手に持っていたマイクのスイッチを入れた。



「ただいまの試合で、スヴェトラーナ・グリンカ選手に違反行為がありました」



 こう切り出したマイコは、スタジアムを見渡しながら、スヴェトラーナの違反行為の解説を手短に行った。


 カナは、そんなマイコの姿を見て、自分を味方してくれていると思い、涙を浮かべる。


 その間、意識が回復しないスヴェトラーナは、アンドロイドらによって担架で運ばれていった。



 もし、スヴェトラーナが試合に勝っていたら、カナの逆転勝ちで観客も沸いたであろう。


 だが、違反の有無に関係なく、カナの勝利は確定しているので、誰も関心がない。


 静かなスタジアムの中にマイコの声が響くだけ。


 結局のところ、選手への間接的な警告に終わった。



 ダグアウトに戻ったカナは、アンドロイドからヘッドセットを受け取った。


 それを装着すると、周囲でザワザワと自分のことを噂しているのが聞こえてきた。



 見た目より実力があるのではないか。


 実は、本人ではなく、使い魔が強いのではないか。


 無関心を装うも、双方の意見に一喜一憂してしまう。



「お疲れ様」


「あっ……、ありがとう」



 イズミが肩をポンと叩いてきた。


 しかし、ねぎらいの言葉は、先ほどの一言のみ。


 後は、散々な言われようだった。



 よそ見をして受けた先制攻撃。


 一か八かで放った雷撃魔法。


 おまけに、幻影に気づかないで取った情けない行動。



「稲妻をでたらめな方向に放っていたとき、みんな笑っていたのよ」


「ごめんなさい」


「さっきの試合は、100点満点で言うと30点ね」


「ちょっと、トイレ――」


「決勝戦で、今のあなたに勝っても――」


「ごめんごめん! 後で!」


 イズミとリンは、カナの背中を見送って、ため息をついた。


「あの子のこと、大目に見てあげて」


「本当に惜しいわ。やればできるのに。私、そういう人を見ると、つい言ってしまうの」


「ところで、あなた。カナのお友達? 名前は?」


「名前を聞くときは、そちらから先に名乗るべきよ」


「あら。それもそうね。私はリン」


「私は、五潘(ごはん)イズミ。お友達というよりは、良きライバルね」


「あの子の戦いぶりを、細かく分析して見ていたみたいだけど」


「私と対等に戦える強い相手だから、当然よ」


「ふーん……、対等ねぇ……」


「なに、ジロジロ見ているの?」


「……そっか。どうりで、臭うわけね」


「臭う?」


「そう。あなたの使い魔は、有名な炎竜でしょう?」


「そうよ。ドラーゴ・ロッソよ」


「あら、あっさりと――」


「隠しても仕方ないから。でも、本当に臭うの? 服を洗濯した方がよいかしら?」


「体臭じゃないわよ。使い魔と一緒にいると、ある種の臭いがつくの。私は匂いだけど」


「そうなんだ。発音が同じでも、あなたの言い方だと、なんとなく違いがわかるわね。

 でも、なんでドラーゴ・ロッソってわかったの?」


「だって、――私の知り合いだから」


「知り合い?」


「そう。あの、ご主人様を選ぶ炎竜が仕えるほどだから、あなた、相当のやり手ね。

 超強力な火炎魔法を使うんでしょう?」


「それはどうも」



 リンとイズミは、ニヤッと笑った。



   ◇◆◇■□■◇◆◇


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