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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会
29/188

29.空中戦

 再び、カナの右手の先に、突風の時と同じ金色の魔方陣が出現する。


 そこから、飛び出したのは、今度はバレーボール大の赤く燃える球体。


 彼女は、さらに詠唱を続ける。



「――防御(ディフェンス)!!」



 略式の詠唱に呼応して、金色の魔方陣が直径3メートルに急拡大。


 この魔方陣が、爆風から身を守る防御壁なのだ。



 一方、発射された球体は、上昇する氷の槍の束に突入する。



 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!



 腹に響く爆発音。


 膨れ上がる炎と白煙。



 一瞬にして、全ての氷の槍が粉々に砕け散った。


 無数の破片が、スタジアムの照明光を乱反射する。


 それらは、まるで枝垂(しだ)れ柳の花火のように、下へ丸く緩やかに軌跡を描いていった。



 爆風を魔方陣で防いだカナは、反動で上昇する。


 無謀とも思える迎撃と、とっさの防御。


 十三歳の少女が魅せる爆裂魔法の技に、スタジアムがどよめいた。



 カナは、槍を全て破壊しても気を緩めず、もうもうと立ちこめる白煙の向こうにスヴェトラーナの姿を探した。



(もう一度、槍の魔法を使うはず。

 ただ、向こうも私の姿が見えないので、すぐには狙ってこないわ)



 試合前とはまるで違う、冷静さを失わないカナ。


 弱気だった彼女は、試合を通じて確実に心が鍛えられ、強くなっている。



 煙幕のような白煙は、すぐには消えない。


 そんな中、浮遊しながら斜め下の方向を注視していたカナは、大きくなるざわめきと悲鳴が耳に飛び込んできた。



 観客が騒々しい。


 槍の第二陣?


 でも、煙の向こうに、その気配はない。



(まさか!? 空中戦!?)



 視線を頭上に向けたカナは、背筋が凍った。


 雲のようにたなびく白煙の向こうに、上昇するたくさんの青白い魔方陣。


 すでに魔方陣の中心から、姿を現している氷の槍。


 スヴェトラーナの頭は、まだ見えていないが、もうすぐのはずだ。



 今、地面と平行に体を向けて浮遊しているカナは、この体勢で魔法を使うことに迷いはなかった。


 スヴェトラーナと向き合うために、体を90度回転させている余裕はない。


 相手は、すでに槍の発射準備を完了しているし、目が合ったら、発射するはず。



 カナは、防御壁の魔方陣をいったん解除した。


 そして、上昇中のスヴェトラーナの体があるであろう位置を追うように、右手を少しずつ持ち上げる。


 頭が出てきた時が、チャンス。


 目が合う前に攻撃だ。



 心臓の鼓動が喉の奥から響いてくる。


 冷や汗が流れる。


 数秒のはずが、何倍にも長く感じる。


 上昇する右腕が震える。



 ついに、白煙の向こうに、ライトブルーの髪がせり上がってきた。



「――稲妻(ライトニング)!!」



 カナの詠唱で、右手の先に、小ぶりの大きさの白色に輝く魔方陣が出現。


 同時に、小さめで横向きの稲妻が白煙を突き刺した。



 煙の向こうから聞こえてくる、耳をつんざく悲鳴。


 サッと沈んだ頭。


 一斉に光の粒となって消えていく青白い魔方陣。



(やった!!

 ……でも、大丈夫かしら?)



 雷撃魔法は、カナの十八番(おはこ)で、素速く繰り出せて威力もある。


 だが、生身の相手には非常に危険なので、手加減をする必要がある。


 弱めでも、相手の戦意を失うには十分。


 だから、魔方陣も小ぶりで、稲妻も小さめだったのだ。



 カナは、薄れていく白煙を掻き分けるように下降し、地上を目指す。


 すると、スヴェトラーナが左手で右腕を押さえながら、同じように下降しているのが見えてきた。



 体の中心を外すように稲妻を繰り出したのだが、右腕だけで済んだらしい。


 これは、狙い通り。


 後は、相手が戦意喪失でギブアップするのを待つだけ。



 スヴェトラーナが、膝のクッションを使ってふわりと着地した。


 続いて、彼女の背中を見ながら、カナも同じように着地。


 二人の距離は、15メートルほど。


 彼女達は、肩で息をしつつ、そのまま立ち尽くす。



 ふと、スヴェトラーナが左手を高く上げた。


 そして、右手をだらんとさせたまま、後ろを振り向く。


 ギブアップのポーズか?


 ところが、彼女は不敵な笑いを浮かべつつ、何かを詠唱している。



(来る!!)



 カナは、直感的に後方へ10メートルほど跳んだ。



 ほぼ同時に、先ほどまで立っていた彼女の位置に、直径2メートルの青白く輝く魔方陣が出現した。


 そこに描かれた美しい文様と、ちりばめられた古代文字が回転する。


 すると、魔方陣の周囲に沿って、2メートルを超す円柱状の光の壁が持ち上がる。


 ナディアの時と同じだ。



 観客は、再び感嘆の声を上げる。


 そうして、誰もが、召還される魔獣を期待する。


 しかし、カナだけは、ビリビリと感じる強い魔力に、警戒を強めた。



 持ち上がった光の壁が下がり始めると、中から現れたのは、全身が青白く光る犬のような魔獣。


 三つの頭を持ち、尻尾が蛇だ。


 ケルベロスである。


 しかも、そいつの体はムクムクと大きくなり、インド象くらいの大きさになった。



「――稲妻(ライトニング)!!」



 カナは、今度は手加減をせず、巨体へ強めの稲妻をお見舞いする。


 だが、不思議なことに、稲妻は魔獣の体を突き抜けるだけ。


 彼女は、続けて二発繰り出したが、全て突き抜けた。


 光る魔獣は、嘲笑うように首を振り、咆哮して威嚇する。



(こういうときは――!)



 カナは、魔獣を睨み付けて、大きく息を吸った。


 そうして、力強く詠唱する。


 略式ではなく、正式に。



「賢者の石を守護する気高き番人よ、類い希なる聖剣の遣い手よ、

 汝、契約に(したがい)て馳せ参じ、我が(もと)に顕現せよ!」


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