24.重傷の友人
異国の親友が敗北した。
完膚無きまでに。
全ての魔法が、ユカリの前には無駄に終わった。
魔法を習い立ての素人がコケにされるように。
遊ばれるだけ遊ばれて、最後は瞬殺。
カナの心の中で、何かが突き上げてきた。
喉元を過ぎる勢いだ。
震える左手で胸を押さえた彼女は、それを堪える。
自分は爆裂魔法を使えるからわかる。
あれは、反則すれすれの危険な技。
輝く球を体にグッと密着させて爆破させれば、四肢と首が吹き飛ばせるのだ。
その魔法を寸止めで使ったのかは、あくどいユカリなら疑わしい。
手が滑った、と偽って、いくつかの球は危険なほど接近して使っている可能性がある。
でなければ、あそこまで服は焦げない。
いずれにせよ、ナディアは爆裂魔法をまともに食らって、息も絶え絶えに横たわっている。
あれは、敗者ではない。
重傷者なのだ。
なのに、そばにいて10カウントをした審判員。
よりによって、カナの母親だ。
彼女らに目もくれず、観客に手を上げて小躍りしているユカリ。
勝利に沸く観客。
虫の息の友人ナディアを前に、右手を挙げて勝利を告げる審判員。
(これは、試合……?)
異常だ。
あまりに異常だ。
こんな時、どうすればいいのか。
駆けつけた方がいいのか、見守った方がいいのか。
判断が付かない自分の不甲斐なさが、悲しくなる。
突き上げる何かが、熱い物を押し上げてきた。
ついに下瞼から、涙が溢れ出る。
(あっ……)
潤む視界に、向かいのダグアウトから弾丸のように飛び出したスヴェトラーナの姿が映った。
遅れて、六名のアンドロイドの救護班が、担架を運びながら駆けつける。
(行こう!)
彼らに背中を押されて立ち上がろうとしたカナ。
だが、彼女は中腰になって動けなくなった。
右手首がつかまれたのだ。
彼女が咄嗟に右を向く。
見ると、隣に座っていたイズミが、両手でカナの右手首を握っている。
グッと右腕を引いてみる。
1センチメートルも動かない。
イズミは、強く腕をつかんだままだ。
目を閉じ、首を左右に振っている。
もう一度、右腕を引く。
今度は力一杯引っ張られ、カナはベンチに尻餅をついた。
彼女は、イズミを睨む。
「なぜ!?」