23.炸裂する無数の球体
芝の上に尻餅をついて二回弾んだナディアは、結界の壁にもたれながら、苦しそうな顔を天に向ける。
しかし、気力を振り絞って、まだ握っていた太刀を杖代わりに立ち上がった。
だが、すぐに膝を折る。
太刀が手から放れる。
両手で腹を押さえて、吐くような仕草を見せる。
「なんだい、蹴りで終わりかよ!
早く終わると、ママに怒られるんだよなぁ……。
一応、挙行サイドとしては、もうちょい試合が続いてもらわないと」
座り込んだナディアの様子を窺うユカリは、苛立つ。
しかし、何度か立ち上がろうとするも腰が上がらない様子に、待つのを諦めた。
「ちっ! 今、何時だよ!?
……三分経過か。
んじゃ、そろそろ片をつけても、金返せコールは起こらないよな」
ヘラヘラと笑うユカリは、右手を大きく振りかぶって、釣り糸を遠投するように鎖を投げた。
すると、鎖はシュルシュルと風切る音を立てて、ひとりでに伸びていく。
その先端がナディアを捕らえると、胸の周りを三周して、食い込むほどきつく巻き付いた。
今度は、鎖がひとりでに縮んでいき、咳き込んで苦しがるナディアをズルズルと引きずっていく。
ユカリから20メートル離れたところまで引きずられたナディアは、今度は20メートルくらいの高さにまで持ち上げられた。
鎖が、まるでクレーンの腕のように、自在に動くのだ。
それを操る暴君が、獲物でも見るような目を上に向けて、高笑いする。
「ハハハハハ! どうだい、いい眺めだろう?
今、花を添えてやるから、待ってろよ!」
そう言いながら、ユカリは左手をナディアに向けて突き出した。
すると、ナディアの周りにバレーボール大の光り輝く球が次々と現れ、彼女の体を隠していく。
全身が、キラキラと輝く葡萄のようになった、その刹那――、
ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボッ!!!
大音響を上げて炸裂する球。
まるで、たくさんの花を咲かせた千輪菊のよう。
だが、その中心は地獄だった。
炸裂音のこだまが消えても、まだ白煙がもうもうと立ちこめている。
十万以上の目が注視する中、白煙が薄れてきた。
そこには、ぐったりとしたナディアの姿が。
服は破れ、髪の毛も肌も焦げ、爆心の壮絶さを物語る。
「そこまで! 彼女を安全に降ろしなさい!」
審判員のマイコが、右手を挙げる。
「えー? まだ終わってないし。これからだし――」
「そこで止めなさい!!」
「あいつ、まだギブしてないし――」
「これ以上の爆裂魔法は、危険行為と見なします!」
危険行為は、即失格だ。
ユカリは、あからさまに舌打ちして審判員を睨み付ける。
仕方なく鎖をゆっくり下降させ、右足で芝に穴が開くほど蹴りを入れる。
鎖を消滅させたときなどは、危うく、呪いの言葉が出そうになった。
意識のないナディアが緑のシーツのような芝に横たわると、マイコが近づき、10カウントを始める。
だが、ナディアの耳にはその声が届かない。
折り曲がったままの体は、微かに肩と胸は動いているものの、それ以外はピクリともしないのだ。
「8……、9……、10……!
勝者、七身ユカリ!」
そっぽを向くユカリを横目に、マイコは勝利を宣言する。
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ユ・カ・リ!!! ユ・カ・リ!!! ユ・カ・リ!!!」
一気に歓声が爆発する。
スタジアムは、地面が揺れるユカリコールで包まれた。