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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第三章 ヴァルプルギスの魔宴
186/188

186.最悪の魔女の最期

「何をしておる。

 炎竜よ。我の前にその姿を示せ」


 (さく)がカナの胸の谷間付近をグッと押すと、そこから赤褐色の煙が現れた。


 その煙は、たちまちのうちに大きく膨れ上がり、どこまでも上昇して横方向へも広がる。そして、徐々に竜の形になっていった。


 赤褐色でゴツゴツした巨岩のような後ろ足。人の背丈ほど太い尻尾。


 岩肌のような皮膚を持つ胴体。丸太のような太い前足に鋭い爪。巨大な翼。


 そして、八階建てのビルの高さにある竜の頭。背丈は30メートルを優に超えるであろう。


「おおっ! 夢にまで見た雄姿!」


 その声に灼眼がギラリと輝いて、両手を広げて感嘆する(さく)を見下ろした。


「さあ、炎竜よ。我を宿主とせよ」


 炎竜はゆっくりと首を傾げ、全身がビリビリと震えるほどの重低音で問いかける。


「汝が我を呼び出したのか?」


「いかにも」


 さらに灼眼が輝く。


(なに)(ゆえ)に?」


「ヴァルプルギスの魔宴が始まった。すでに破壊と混乱がこの地で起きている」


「他人事のようだが、起こしたのは汝であろう?

 もう一度問う。(なに)(ゆえ)に?」


「魔女を迫害するこの世の中を浄化するがゆえ」


「浄化に、破壊と混乱は不要。

 なのに、(なに)(ゆえ)それらを引き起こした?」


「ええい! 理屈など無用!

 炎竜よ、我を宿主とせよ!

 そして、そなたの火炎でこの世を焼き尽くすのだ!」


「破壊と混乱によって(おの)が快楽を得るために此度の騒乱を引き起こしたのは、火を見るよりも明らか。

 これ以上の問答は無用。

 カナ。こやつを成敗せよ」


 すると、カナが目をカッと見開いた。


 彼女は、素速く左の手のひらを(さく)の胸へ向け、「フユミ、ありがとう」と言って痛む右手で左肘をつかんだ。


「なにぃ!!??」


 (さく)が体を横にそらそうとしたその時――、



「――稲  妻(ライトニング)!!!!」



 カナが高らかに詠唱すると、(さく)の胸の前に金色に輝く魔方陣が出現し、瞬時に稲妻が発射された。


「グハッ!!」


 全身から放電する(さく)の体が吹き飛び、地面の上で弾んだ。


「お嬢様!」


 そこへ駆けつけたメイド姿の真弓が、肩で息をしながらカナを呼ぶ。


「真弓!」


 右腕の痛みを堪えながら、カナはヨロヨロと立ち上がった。駆けつけた真弓に体を支えてもらいながら、二人はその場を離れる。


「本当に飛んで参りましたが、遅くなりまして申し訳ございません」


「いいわよ。来るのを信じていたから」


 ところが、(さく)は上半身をムクッと起こし、髪を振り乱しながら立ち上がった。


「逃がさぬ!」


 (さく)の両腕が一気に伸びて、カナと真弓の首が絞められた。


「貴様ら、我に魔力をよこせ!」


 カナと真弓は急速に魔力を奪われていき、膝を折った。


「そうだ、こやつの魔力もあったのう。極上のそれをいただこう」


 (さく)は真弓から手を離し、横たわっている(てい)()の方へ手を伸ばして首をつかんだ。


「おおっ! 魔力が、みるみる回復する!

 これで――」


 と、その時、炎竜が(さく)を見下ろして口をカッと開いた。


 喉の奥で炎の玉が赤々と燃える。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 炎竜が吐き出した火炎は、轟音を伴う炎の柱となって(さく)を襲う。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 (さく)は炎に包まれた。


「アアアアアア……アアアアアア……」


 カナと(てい)()をつかんでいた手が離れて、縮んでいく。


 燃え上がる髪の毛は、炎が作る上昇気流に乗って宙を舞う。


 (さく)の和服が燃え尽き、体は火炎の光の中で骸骨のような黒いシルエットになる。


 髪の毛で隠れていた頭が、断末魔の叫びをあげる黒い頭蓋骨となって現れる。


 ユラユラと揺れていた体は、まだ炎がまとわりついたまま崩れ始めた。


 両腕が落ち、頭が落ち、背骨が折れ、膝が折れる。


 こうして、全ての骨が地面に転がった後も、騒乱の元凶を裁く炎は赤々と燃え上がった。


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