184.空中での魔法の勝負
カナは上空の貞子を見上げて「そうよ」と答える。
だが、貞子は首を傾げるのをやめない。
「幼い頃、リンとベッタリだった印象があるが」
「昔のことは覚えていない。
それより、この騒ぎを今すぐやめて! みんなにこれ以上の迷惑をかけないで!」
「それは無理な相談だ。
古来より魔女は迫害を受けてきた。超常的な現象を扱う優れた人間が、その力を持たぬ無能の輩によって、ありとあらゆる辛酸を嘗めてきた。
かの輩は、共栄共存を望むのなら魔法を捨てよと我らに強要する。
逆らえば、子々孫々まで永遠に相容れないと我らを拒絶する」
「いいえ、今の世の中は、魔女と一般人は共栄共存の道を歩んでいるわ!」
「うわべだけな。
双方の理想論者が、法律という縛りで一般人と魔女を縛った結果がそれだ。
そのような奇妙な均衡は、いずれ破綻し、厄災をもたらす。
それに、疑似魔法を見よ。
あれは、一般人が魔女を超越しようとする馬鹿げた考えの産物ぞ。
破綻はすぐ目の前に来ておる」
「そんなことはないわ!」
「あくまでも楽観論を唱えるか。
嘆かわしいほど救いようのない阿呆であるな」
「いいえ、あなたの考えが間違っている!」
「能力のない一般人なぞ、この世に生まれるべきではない。
今すぐ、根絶やしにすべき存在。
それがわからぬのなら、我に刃向かう者と見なす。
手始めに、カナ、貴様を殺す」
貞子は目をカッと見開いた。と、同時に、彼女の前に白色の魔方陣が展開されて、三本の短剣が発射された。
直ぐさま、カナは前面に赤色に輝く魔方陣を展開する。
キーン! キーン! キーン!
魔方陣に火花が飛び散り、短剣が弾き飛んだ。
「ん? その魔方陣……。馬脚を現したな」
貞子がニヤッと笑った。
「――っ!」
咄嗟に展開した魔方陣がカナのものではないことが見破られたのだ。カナは唇を噛む。
「それは、六隠家の魔方陣。
貴様は誰だ?」
すると、カナは突然イケメンに変身した。
「フッ。いかにも、僕は六隠家の三女、ハルさ。
でも、すぐにはカナちゃんと区別がつかなかったよね? 上出来、上出来」
「なら、カナはどこにいる?」
すると、貞子の目の前に、宙に浮いたカナが突如と出現した。
「私はここよ」
貞子は、ギョッとして目を剥いた。
「貴様! いつの間にそんな技を!?」
「宙に浮くのは昔から得意よ。最近、ステルスを覚えたの。
そんなことより、今すぐ、魔宴をやめなさい!」
カナは左手のひらを突き出し、右手で左肘をつかんだ。魔法を発動する構えだ。
「それは、何の真似だ?」
「答え次第では、あなたを撃つ」
「出来もしない、臆病者の泣き虫のくせに」
「それは昔の話。今は違う。
さあ、今すぐ、魔宴をやめなさい!」
貞子は目をカッと見開いた。再び、彼女の前に白色の魔方陣が展開される。
「黙れ、小娘! 死ねぇ!!」
「――稲妻!!」
二人の魔法が空中の至近距離で激突した。