183.魔法少女の逆襲
ユカリは指をボキボキ鳴らして口角をつり上げる。
「ガキのなりして、いろいろ暴れてくれるじゃねえかよ!」
彼女は短く詠唱して、空中から黒光りする太い鎖を出現させる。それを両手でがっしりとつかみ、真横にギンと引っ張った。
「行くぜ!!」
気合いを入れたユカリは右手を短く振りかぶり、素速く鎖を投げた。
すると、鎖はシュルシュルと風切る音を立ててひとりでに伸びていき、貞子の胸の周りを五周して、食い込むほどきつく巻き付いた。珍しく、貞子が顔を歪めて苦しがる。
「ナツ! 奴の腕の鎖を外せ!」
「はい!」
地面から伸びていたたくさんの黒い鎖が、光の粒となって消えた。
すると、ユカリの鎖がまるでクレーンの腕のように動き、ゴムのように伸びて、貞子の体は一気に30メートル以上の高さにまで持ち上げられた。
「この鎖、さては、貴様は七身家の者だな」
鎖を操るユカリは、捕らえた獲物を見る目で貞子を見上げて高笑いする。
「ハハハハハッ! いかにも。七身家の次女、ユカリだぜ!
だがよ。この魔法は序の口なんだよ!
はいはーい、今日はいつもより、たかーく上がっています!
何でだか、わかるかなぁ?」
そう言いながら、ユカリは左手を貞子に向けて突き出した。
すると、彼女の周りにバレーボール大の光り輝く球が次々と現れ、体をすっかり覆った。しかし、それで終わりではなく、まだ現れる無数の光る球が二重に覆った。
空中に出現した、キラキラと輝く巨大な葡萄の房。
「あばよ」
ユカリが別れを告げたその時――、
ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボッ!!!!
間近で弾ける花火のような大音響を上げて、無数の球が炸裂し、花を咲かせた千輪菊が空中に出現した。
なかなか消えない白煙がもうもうと立ちこめ、結界に閉じ込められた魔女たちが上空を見上げて固唾を呑む。
ようやく白煙が薄れてきた。
そこには、ぐったりとした捕らわれ人の姿がある――はずだった。
確かに服は破れ、ベレー帽もどこかへ吹き飛んでいたが、なんだか白い歯をむき出して笑っているように見える。
「鎖には驚いたが、花火がしょぼすぎて興ざめよのう」
「な、何だと!?」
焦るユカリは、今度は玉を倍増して三重に包み込んだ。
「食らえ!」
腹にまで響く大音響が辺りにこだまし、眩しくてまともに見ていられないほどの閃光が走ったが、白煙の中から現れた貞子は、ケロリとしている。
「う、嘘だろ……」
ユカリは青ざめた。これを魔法少女にお見舞いしたら、確実に即死するレベルの魔法だ。爆裂魔法に耐性があるとしか思えない。
「ユカリさん! 鎖はそのままに! 使い魔のドラーゴ・ロッソを召還します!」
「おうよ!」
イズミは使い魔のドラーゴ・ロッソを召還し、灼熱の炎で貞子を攻撃させた。
だが、こちらも何事もなかったような顔をしている。
彼女が「炎の矢」を何本も放っても、体が矢を弾く。
万策尽きたという顔をしたイズミが、ユカリの方を向いた。
「爆裂魔法と火炎魔法に耐性があるのでしょうか?」
「ちげえねえ。これは、やっべーぞ」
たじろぐ二人を見下ろした貞子は、カラカラと笑う。
「この火炎魔法は、五潘家自慢のものであろう? 褒めてはやるが、所詮経験済み。
貴様の先祖は、我にこれを何度ぶつけてきたことか。
七身家の爆裂魔法も同じ。先祖伝来の馬鹿の一つ覚えよ」
ユカリもイズミも唇を噛んで悔しがる。
「ところで、そこにおるのは、カナか?
それにしては、黒猫リンがおらぬ。
貴様は本当にカナか」
貞子は上空からカナを睨み付けた。