181.因縁の対決、再び
刺されたはずの真弓は倒れなかった。
魔女が短剣の感触に戸惑った一瞬の隙に、真弓は短剣を持つ相手の腕を両手でつかんでひねり技を繰り出した。
ところが、真弓のつかんだ腕の部分は服の布のみで、袖を通しているはずの腕がない。なので、彼女は手を離した。
両者は同時に後方へ跳んだ。
魔女が低い声で「布の強度を上げたな、冬来真弓」と感心する。
真弓は「至近距離からマシンガンで掃射されても、貫通しなし衝撃も吸収されるわよ」と自慢しながらローブを脱ぎ捨てた。
中から現れたのは、彼女のトレードマークであるメイド服だ。
「顔も剥がせ」
「そんなに見たい?」
「見たい。敗者の顔を」
「狂先錯には負けたけれど、無東微には負けた覚えはないわよ」
「勝った覚えもあるまいて」
「じゃあ、この新しい顔で今度は勝ってみせる」
「フン、中身は変わらぬ。
今度こそ、決着をつけてやる。来い」
微は、やや前屈みになって短剣を構える。真弓はロッドを取り出した。
「ほう。懐かしいロッドだ」
「アッシュ材、トネリコよ」
「ん? 材質を変えた? 形は一緒だが」
「そう。魔力を強化したの」
「なるほど。だが、その程度で物理攻撃を交わせるとでも?」
「当然。
――瞬間的爆破!!」
真弓の不意打ちのような魔法攻撃で、微のフードの中がいきなり爆発した。彼女は顔がないので、空洞の中で爆発したようなものだが、効果があったのか蹌踉めいた。
「――上昇!!」
今度は、微の全身が天井の近くまで持ち上がる。
「――落下!!」
これで頭から一気に床へたたきつけられた。ただ、重量感がなかったので次の攻撃を躊躇った。
そう。腕をつかんだときも、袖の中に空気しかないような感触だったのだ。
その一瞬の迷いの隙に、微がガバッと跳ね起きて短剣を真弓の首筋めがけて投げつけた。メイド服が鎧みたいなものなので、むき出している首や顔を狙ったのだ。
真弓は素速く避けたが、背後に殺気を感じてさらに避けると、後ろに飛んだはずの短剣が戻ってきて、彼女の首をかすめて床に突き刺さった。
短剣を床から抜いた微が、それを振りかざして真弓へ飛びかかる。
真弓は交わしながら、微の胸に蹴りを入れる。
やはり、手応えがない。ローブを蹴っている感じがする。
だが、そのローブを纏う体が中にあるかのように、短剣を振りかざして攻撃してくる。
もう一度、魔法で爆破する。跳び蹴りをお見舞いする。
全て同じ感触だ。
(ならば、ローブと短剣をどこかで操っているはず!)
そう推測した真弓は、あることがひらめいた。
(どこから現れた?)
真弓は床を見て、最初に微が現れたと思われる場所にロッドを向けた。
「――爆破!!」
すると、床に大きな穴が開き、「ギャッ!」という悲鳴が上がった。と同時に、少し離れていたところに立っていたローブがヘナヘナと力なく倒れて動かなくなった。
「逃げた……」
真弓は開いた床の穴を覗き込み、短剣を拾って、それをクシャクシャになったローブに力一杯突き刺した。
「あの子たちを助けないと」
そうつぶやいた真弓は、足早に部屋を出た。