178.早まる魔宴
ここは畏岳の洞窟にある秘密の部屋。その一番奥の御簾から、今、魔法女学校の制服を着た一人の少女が投げ出された。
彼女は一度弾んで、丸太のようにゴロゴロと部屋の中央へ転がっていく。そこには、すでに三十人以上の少女が横たわっていた。
それを部屋の隅で見ていた黒ずくめの少年が、ベレー帽を脱いで金髪に指を突っ込み、クシャクシャと掻きながら眉をひそめる。
御簾の奥から、女の低い声が聞こえてきた。
「これで全部か?」
「…………」
「答えぬときたか。でも、わかる。この先に強大な魔力をまだまだ感じる。なにゆえ、それを手に入れられぬ?」
「激しい抵抗にあってね」
と、その時、御簾の隙間から伸びてきた錯の細長い手が貞子の首をガシッとつかんだ。
「ゲホッ……ゲホッ……」
「抵抗せぬ奴などおらぬ。今度失敗したら、貴様の魔力を捧げよ」
「一姫まで……邪魔に入るから……無理……」
「あやつか……。わからんでもない」
「わかるなら……この手を……離してよ……」
「ふむ」
錯の手が離れて、御簾の中へ戻っていった。
「なら、我にやらせるのだな?」
「ゲホッ……ゲホッ……。力及ばず、ごめんなさい」
「仕方あるまい……。魔宴を明日開始する。その混乱に乗じて、あの強大な魔力を手に入れる」
「ちょ、ちょっと待って! 準備がまだ――」
「何の準備だ? 我は魔宴を開始するだけの魔力は手に入れたぞ」
「海外から駆けつける魔女が、まだほとんど入国していない。4月末の日程に合うように段階的に密入国する手配になっているけど――」
「一度に入国させよ」
「無理無理! 気づかれる! 漂着させる船が船団を組んだらおかしいでしょう!? 飛行機が魔女だらけなら、入国審査で怪しまれるし!」
「貴様にやらせた我の見る目がなかったということか」
「いや、そこまでは言っていないけど……」
「とにかく、待てぬ。魔宴を明日開始する。
貴様の体を貸せ」
「えっ!?」
再び御簾の隙間から伸びてきた錯の細長い手が貞子の胸ぐらをつかみ、あっという間に彼女の体は御簾の中へ引きずり込まれた。
しばらくして、御簾から不敵な嗤いを浮かべた貞子が現れた。邪気が体中から発散し、周囲に薄紫色の煙のように漂っている。
彼女は両手を広げて天井を見上げた。
「フフフフッ! ハハハハハッ!
さあ、ヴァルプルギスの魔宴の開始だ!
あやつらを捕らえて強大な魔力を根こそぎ奪ってやる!
その魔力さえ手に入れれば、この世の破滅など容易い!」
彼女の嗤いは止まらない。
「ハハハハハッ!
炎竜。今度こそ、貴様をこの体の中に取り込んでやる!
今度こそな!」
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