176.反撃開始
リンは、一姫が大人しく退散したので、カナの方へ振り返る。
「さあ、こうなった理由を説明してちょうだい」
カナはリンに、一姫が保護と称してこの建物に全員を閉じ込めたこと、結界が張られていてリンを召還できなかったこと、ここにいるみんなが貞子に狙われていること、魔法女学校が貞子率いるはぐれ魔女たちに襲われていることを手短に伝えた。
「なるほどね。
ねえ、みんな、これからどうしたい?」
リンの問いかけに、全員が口々に「魔法女学校を魔の手から守りたい」と答える。
彼女たちの思いを受け止めたリンは、「オッケー。とりあえず、学校内で敵の手に落ちていない場所に今から移動するわよ」と言って、宙に浮いたまま両方の前足を真上に上げる。
リンの短い詠唱の後、たちまち、リンたち全員が光に包まれた。
◇◆◇■□■◇◆◇
魔法女学校の体育館は、避難した生徒たち三十人ほどが座り込み、肩を寄せ合いながら震えていた。
その近くに光の塊が現れ、中からリンやカナたちが登場する。
生徒たちは、魔法少女世界選手権大会の優勝者であるカナの姿を見て、百人力を得たかのように喝采した。
さっそく、カナは生徒から状況を聞いた。
体育館の周囲は、高校三年生と高校二年生のうち、魔法に長けた生徒が魔女の攻撃を辛うじて防いでいる。
それ以外の生徒は、一部はまだ抵抗しているか別の場所に隠れているかも知れないが、多くがどこかへ連れ去られたとのこと。
カナは、見渡すと生徒しか見えないので気になり、近くの生徒へ尋ねた。
「先生方は? 校長先生は?」
すると、その生徒も周囲の生徒も、突然泣き出した。
「全員、殺されました……」「微という魔女に」
カナたち全員が、血が凍るほどの恐怖を覚えて絶句した。
リンが宙に浮きながら腕を組み「あのアサシンが登場とは、かなり面倒なことになったわよ」とため息をつく。
「リン、どうすればいい?」
すがるような目でリンを見るカナは、すっかり青ざめている。
「この中で、攻撃に特化した魔法を使えるのは誰?」
カナとイズミが真っ先に手を挙げた。
次にナツが「少しなら」と肩の高さまで手を挙げる。
誰かが「七身ユカリさんと蜂乗マコトさんと蜂乗イリヤさんが、外で戦っています」と声を上げた。
カナは、マコトとイリヤの名前を聞いて目の前がパッと明るくなった。ただ、ミナの名前が挙がらなかったのは、気がかりだった。
「もう少しメンバーが欲しいけど、仕方ないわね。
じゃあ、選抜メンバーで反撃開始よ。
三人は私と来て。魔女をコテンパンに叩きのめすわよ」
リンは宙に浮いたまま、恐ろしい速さで体育館のドアに向かって飛んだ。カナとイズミとナツが駆け足でリンを追った。