173.燃える魔法女学校
カナたちは、一姫の頭上に黒い煙の塊が出現したので、魔獣でも出現するのかと警戒し、立ち上がって身構えた。
しかし、その煙はたちまち長方形の板のようになり、高さが1メートル、幅が2メートルほどの真っ黒い液晶ディスプレイに変化した。
一姫は右手の人差し指で頭上に出現したディスプレイを指さし、「さあ、今から恐ろしい現実を見せるわよ」と言いつつ、もう一度指を鳴らした。
すると、画面がパッと明るくなり、続いて、木々の中央に頭を出している建物から黒煙が立ちこめている映像が映し出された。
カナたちは一様に「アッ!」と声を上げた。それは、見慣れた魔法女学校の校舎だからだ。
遠くから、悲鳴のようなものが聞こえてくる。怒号のようなものも聞こえてくる。
急に画面が上方向を向いた。そこには、黒ローブを纏った数人の魔女が空中を旋回している。
今度は、画面が下方向を向いた。校門付近では、同じ格好の魔女が二人がかりでぐったりした生徒を引きずっている。
どこへ連れ去ろうとしているのか見ていると、画面はまた燃える建物を映しだした。
「あらあら、うちの鳩が落ち着きなくて、ごめんなさい。キョロキョロしているから見たいところが見られないわね」
どうやら、今見ている映像は、現場近く――おそらく電線――にいる使い魔の鳩から見た映像らしい。
「魔宴までまだ2週間あるのに、もう前夜祭まがいのことをやるなんて。当日はどんな騒ぎになるのやら……」
その時、イズミが勢いよく前に出て一姫を力強く指さした。
「ちょっと! あなたはここに映っている魔女の仲間なの!?」
すると、一姫は「いいえ」と首を横に振る。
「だったら、なぜ助けに行かないの!?」
「私がここを離れたら、あの桑無貞子がこの分厚いコンクリートの壁を抜けてくるわよ」
「桑無貞子が!?」
「そうよ。あなた達を狙いにね」
イズミは呆然として、ダランと腕を下げた。
「今映っていた魔女たちは、彼女の手下。
覚醒した狂先錯が上質の魔力を欲しているので、アサシンの魔女の無東微にスクールバスを襲撃させ、護衛の教師を暗殺した後、生徒の魔力を奪ったの」
「何ですって!?」
「その成功に味を占めたので、今度は魔法女学校を直接襲撃した。なにせ、あそこは魔力の宝庫みたいなものだから」
「そこまで知っていて、なぜ魔法警察に通報しなかったの!?」
「無駄よ」
フードから見えている一姫の口元が笑った。
「どうして!?」
「魔法警察には、はぐれ魔女の息がかかった協力者がたくさんいるから」
「えっ!?」
「先日、馬貝エリ校長が蜂乗マイコを通じて魔法警察の保護を求めたの。
あなた方が、今こうしてここにいるように、安全な施設に分散して生徒全員を隔離するため」
一姫は両手を広げて天井を見上げる。
「でも、その依頼内容は内通者を通じて、桑無貞子にダダ漏れ。
さらに、わざと隔離の決定を遅らせて、その間に襲撃したというわけ」
「もしかして、上層部にまで息のかかった者が!?」
「そうよ。だから、決定が遅れたの。
こうして、桑無貞子が都合いいように警察が動いてくれている」
「信じられない……」
「今回の魔宴は、前回の比ではないほど、用意周到で大掛かりよ。
なにせ、前回敵に回った魔法警察が味方になって一枚噛んでいるくらいだから」
イズミはもちろん、カナたちも呆然として立ち尽くす。
「ねっ? 私が保護したという意味、理解した?」
一姫は腕組みをしてニヤリと笑い、指をリズミカルに動かした。
ここで、カナが一歩前に出る。
「なぜ、あなたはここまで詳しく知っているの?」
一姫のリズミカルに動く指が止まった。
「私の使い魔は優秀なの。隠し事など、ほぼ不可能よ」
「なら、なぜ私たちを保護するの?」
「それはね――」
腕組みをやめた彼女が、カナを指さした。