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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第三章 ヴァルプルギスの魔宴
171/188

171.正義の魔女の提案

 魔法女学校の校長室では、エリ校長が机に肘をつき両手を組み、その組んだ手の上に額を乗せていた。


 全校生徒を前にして弔辞を読み上げた際に(せい)(るい)ともに下りそうになったことを思い起こす。


 アカリの提案だったとはいえ、最終的に自分が承認したスクールバス通学の途中で二人の教師の尊い命が奪われた、と自責の念に駆られる。


 そして、今回の極悪非道なはぐれ魔女たちを駆り立てる魔宴の主催者の最終目的について、思いを凝らす。


 そんな中、校長室をノックする者がいた。エリ校長は額を少し上げ、鋭い眼をドアの方へ向ける。


 10秒後、腕組みをしながら「来たか」とつぶやいて椅子の背もたれに体を預けた。ドアの向こうの魔力を察知したのだ。そして、おもむろに「どうぞ」と応答した。


 すると、「失礼します」と言いながら、赤髪のポニーテールを揺らし、ピンクの眼鏡をかけた若い教師が入ってきた。真新しいグレイのスーツ姿が、新米教師の雰囲気を醸し出す。


「今日子先生。あなたは今、何の授業を担当中で、次は何ですか?」


 わざわざ担当する授業を問われた意味を察した今日子は、「いきなりその質問ですか。参りましたね」と頭をかく。


「あなた、思いつきで来ましたね?」


「いえ、これでも熟慮しましたよ」


 今日子は、部屋の真ん中で立ち止まる。


「ドアを開けなかったら?」


「それはあり得ません。校長なら必ず開けると思っていました。

 何せ、この私のお話をこうして直接聞きたいから。

 そうでなければ、ドアごと吹き飛ばされていましたよ」


 不気味に笑う今日子から目を離さないエリ校長は、ため息交じりに「……して、あなたのその話とやらは?」と問う。


「私と手を結びませんか?」


 スッと差し出された今日子の右手は、凜としたエリ校長の「断る!」の一言で(くう)を握る。


「今、この非常事態に、渡りに船を得る話は滅多にないと思いますが」


「人殺しと休戦協定を結んで共闘するとでも?」


「必要な人殺ししかしませんよ。私は正義の魔女です。悪事を働く魔女を排除するのが使命なので」


「なら、憑依した人間を人質に取らず、今すぐここから立ち去りなさい」


「いいのですか? はぐれ魔女の勢力情報を持っていますが、欲しくないのですか?」


 エリ校長は、眉を八の字にする。


「……なら、手を結ぶことで、何を見返りに欲するのですか?」


「もちろん、炎竜です」


「カナのを?」


「イズミのは炎竜とは言いません。まさか、あれを炎竜とお思いとか?」


 今日子は、吹き出しそうになるのを堪える。


「ここまでして手を組みたいということは――」


 エリ校長は身を乗り出して言葉を続ける。


「単独では行動できないほど、はぐれ魔女が悪行を働いているということですね?」


「今回の魔宴の規模は、前回の比ではありません」


「……なるほど」


 再び、エリ校長は椅子の背もたれに体を預ける。


「こちらの条件を言いましょう。もし、飲めないなら、今すぐ立ち去りなさい」


「よい条件を期待します」


「炎竜は渡さない。(くのつぎ)一族の復興は認めない。そして――」


「最初の一つで交渉決裂ですね。

 この今日子という教師の体は、ここから安全に立ち退くためにしばらくお借りしますよ」


(くのつぎ)一姫(いつき)。今回の魔宴ではぐれ魔女と戦い、何を求めるのですか?」


「自分の信念を貫くだけです」


 そう言い残して、今日子はフッと消えた。


 それを見ていたエリ校長は、「断ることは百も承知だったはず。それなのになぜ、ここにやってきたか……?」とつぶやいた後、ハッとあることに気づいた。


 校長室を飛び出して中学二年生の教室に向かった彼女は、予感が的中したどころか、それ以上の大変な事態に陥っていたことに気づき、愕然として膝を折った。


 教室から、カナを含めた中学二年生全員が、忽然と姿を消していたのである。



   ◇◆◇■□■◇◆◇

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