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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会
17/188

17.弱気な自分からの脱却

「ねえ。あなたのこと、カナと呼んでいい?」


「ええ。私は、イズミ……さんと呼んでいい?」


「イズミでいいわよ。あなた、13歳よね? 私、いくつに見える?」


「ええと……、話し方は年上みたいだけど」


「あなたと、ため(ヽヽ)よ」


「えええええっ!?」


「ちゃんと、選手の経歴、見ていないわね? 話していて、なんとなく、そんな感じがしていたけれど」


「ごめんなさい」


「私ね、あなたが参加すると知ってから、絶対に勝負したいと思っていたの。他のどの選手よりも」


「な、なぜ? 私、そんなに強くないし、魔法は制御できないし――」


「あなたは、自分のことを何もわかっていない。

 本気を出して、正確に魔法を繰り出せれば、優勝間違いなしの逸材なのに。

 あなたが得意の、破壊系の魔法。あれは、磨けば世界レベルよ。

 宝の持ち腐れよ」


「えっ? 本気は……出しているけど、でも、うまくいかない。魔法を制御できない――」


「私、やれば出来るのにやろうとしない人、言い訳をする人が嫌いなの。

 制御できないなら、制御できるように練習すればいいのに」


「イズミは、自分が出来るからそう言える――」


「そういうところが、あなたの悪いところ。

 出来るから言えるって?

 そうやって、逃げていない?」


「……」


「えーと、おそらく、お母さんが世界のトップレベルの魔女だから、その飛び抜けた実力と比較して萎縮しているのね。

 そうでしょう?」

「う、うん、……そうかも」


「それは、比較をする相手を間違えている。

 あなたは、U-18、つまり、十八歳以下ではトップレベル」


「!!」


「もっと自信を持っていいの。自信を持てば、怖い物なしよ。

 たくさんの人の前で、魔法を見せつける気持ちで――」


「でも、人前で目立つのは……いやなの」


「目立っていいの」


「いいと言われても……」


「気持ちを切り替えなさい」


「そうは言っても……」


「うーん、手強いわねぇ。

 どんどん、弱気になって殻に閉じこもっていく……」


「……」


「なら、もっと切実な話をするわよ。

 目立つのが嫌い。出しゃばるのが嫌い。

 そんな気持ちでは、スタジアムの真ん中に立つことなんか出来ないわよ」


「……」


「ほら、歓声が聞こえてきたでしょう?

 でも、あんなものじゃない。

 通路を出たら、想像以上に凄い雰囲気だから。圧倒されるから。間違いなく、飲み込まれるから。

 ――これでも、気持ちを切り替えられない?」



 イズミは、歩みを止めた。


 カナも倣った。



 今ちょうど、波のような歓声が、通路にまで流れ込んできた。


 拍手が、手拍子が、ブラスバンドの音楽が、渾然一体となって響いてくる。


 観客席は、完全に、スポーツ観戦状態だ。



「スタジアムの雰囲気って、海の大波みたいなものよ。

 大波に飲み込まれて実力を出せずに自滅するか、大波に乗って実力を出し切るか。

 勝負に勝ちたかったら、まず、この波を克服しないとね。

 今一度聞くけれど、勝ちたいのよね?」



 勝ちたい。


 もちろん、勝ちたい。


 そうでなければ、ここに来ていない。



 よく考えると、漠然と、人前で魔法の試合をする程度にしか考えていなかった。


 それが甘かったことは、今、この音の洪水で気づかされた。


 試合の相手は、目の前の選手だけではないのだ。



 イズミの真剣な顔がカナに迫る。



「勝ちたいのよね!?」


「うん!」


「それでこそ、私のライバル!

 さあ、行きましょう!」



 イズミは、カナの手を取って、走り出した。


 力強く握られた手の温もりを感じつつ、カナも走る。


 スタートダッシュとともに、彼女の気持ちが切り替わった。



 体に受ける風が、彼女の弱気な気持ちを振り落としていく。


 もうこれで、先ほどみたいな逆戻りはないだろう。



 通路の出口が近づいてきた。


 眩しい光を体一杯に浴びる。


 観客の声援のボリュームも一気に上がり、空気に圧力さえ感じる。



 しかし、不思議と緊張しない。


 わくわくしてくる。


 本当に、心臓が高鳴る。


 こんな気持ちは、カナにとって、生まれて初めての経験だった。


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