167.正義の魔女の目的
魔法女学校の校長室では、置き手紙を手にしたエリ校長が椅子に深く腰掛けて、机の前に立つアカリの熱弁に耳を傾けていた。
「ですから、生徒全員を明日からこの学校で寄宿させるべきです!」
「教室か体育館で?」
「寄宿舎がない限り、そうなります」
「結界はどうやって? 誰が学校全体に? しかも、宴が終了するまでずっと」
「なら、自宅待機――」
「やはり、登下校は車で徒歩禁止でしょう。車がない人は、持っている人に乗せてもらう」
「臨時のスクールバスとかは?」
「車を持っていない人をリストアップできていて、どういうルートを通るかまで決めているなら話を聞きましょう」
半ば思いつきだったアカリは、沈黙によってそれを示すことになった。
エリは紙をユラユラと揺らしながらため息をつく。そして、ニヤッと笑って紙に目を落とした。
「正義の味方気取りの魔女が護衛を買って出て、そのスクールバスに同乗してくれるかもしれないけれど」
「その、今回助けてくれた魔女の心当たりは?」
「そんなこともわからないようでは、困りますよ」
そう言って、エリは紙を机の上に投げ出した。
「わざわざ手書きにしているのは、自分の正体を明かすため。あなたはこれを持ってきたときに気づいていないようなので、よく覚えておきなさい」
アカリはツカツカと机の前に歩み寄り、紙を手に取ってじっくりと眺めた。
「それは、十一姫が書いたもの」
エリの言葉にアカリはビクッとした。
「なぜ彼女が!?」
すると、エリは「『あのお方』とは言わないだけよしとしましょう」と笑う。
「一姫の目的は、おそらく世界征服か十家の復興。どちらも炎竜が必要であることには変わりないけれど」
「魔女の間では、今度の宴で世界征服を目論んでいると噂されていますが」
「それは桑無貞子の方。一姫は、最終的には世界征服かも知れないけれど、その前に現在九つある魔女の一族のどれかを蹴落として、そこに十家を入れること。そして、魔女一族の頂点に立つこと」
「蹴落とされるのはどの一族ですか?」
「炎竜を奪うことを考えれば、蜂乗家であることくらい明らかでしょう?」
「……確かに。そのことは、蜂乗家は知っているのですか?」
「先ほど蜂乗マイコには電話を入れておきました。確かにそうね、って納得していましたよ」
「となると、またカナが狙われる――」
「もう狙われています。バスの襲撃の後に。マイコの車の自慢話が長くて、なかなか電話を切らないから困りましたが」
エリは思い出し笑いをした。
「では、スクールバスの案をまとめてきます」
「どうぞ」
アカリが退席した後、エリは天井をボーッと眺めていた。
本当は、生徒を全員寄宿舎に集めて、しばらくの間警護していたい。しかし、そのような場所がない。
「マイコに相談しましょうか……」
ぽつりとつぶやいたエリは、小型端末を袂から取り出して電話を掛けた。
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