162.雷撃魔法の激突
「――稲妻!」
先に構えていたカナは、自分の体でまだ続く放電に耐えつつ、力を振り絞って短く詠唱し、横向きの稲妻を放つ。
一方、両手を突き出した貞子は、無詠唱で先ほどの稲妻を放つ。これが、一瞬だが遅れた。
双方の稲妻は、遅れた方に近い側でぶつかり合う。
目映い閃光。轟く雷鳴。
「――っ!」
爆発の衝撃で、貞子が後ろに吹き飛んだ。
「こしゃくなあああああっ!!」
体勢を立て直した彼女が、再び両手を突き出す。
カナも、これにすかさず応じる。
「――稲妻!!」
だが、これも無詠唱の貞子より、カナの方が早かった。
強烈な稲妻が、遅れた側のすぐそばで激突し、その衝撃で彼女は軽々と飛ばされた。
「ぬおおおおおっ!!」
蹌踉めきながらも立ち上がった貞子が、腕を一杯に伸ばして稲妻を発射しようとする。
だが、それも動きが遅かった。
「――稲妻!!!」
最後の力を出し切るようにカナが叫ぶと、特大の稲妻がジグザグの太い軌跡を描いて相手を襲う。
「ギャアアアアアッ!!」
今度は、貞子が全身から放電し、さらに奥へ弾き飛ばされた。
肩で息をするカナは、もう魔力が底をついていた。
これで倒れてくれないと、形勢が逆転する。
カナの視線は、横たわる相手に釘付けとなった。
だが、運に見放されたようだ。ムクリと貞子が上半身を起こしたからだ。
彼女は、ゾッとするほど不気味な嗤いを浮かべた。
「さあ、いでよ炎竜。お前の出番だ」
そうして、カナを指さして言う。
「あやつを殺せ。劫火で灰をも焼き尽くせ」
ところが、何も起こらない。
「早く殺せ!」
貞子の指が震える。
「何をしている! 命令を聞かぬのか!」
それでも、辺りは沈黙に包まれる。
「ええい! 役立たずめが!」
とその時、貞子の全身がブルブルと震えたかと思うと、彼女は天を仰いで腕をダランと下げ、そのまま動かなくなった。