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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会
16/188

16.強い心を持つ

 その後、輪を作っていた選手たちが、口々に本音を漏らし始めた。



「私、スヴェトラーナに同情するわ。

 猿まねのヤマト国の選手には、全員負けて欲しいという気持ちで一杯ね。

 むしろ、今すぐ、魔法少女の真似事をやめて欲しいの」


「私も同情する。

 彼女、施設で貧しい暮らしをしていたんでしょう?

 かわいそうじゃない?

 勝たせてあげなよ。手を抜いてさ」


「私も同じよ。

 疑似魔法なんか作り出して、ひどい話よ。

 挙げ句に、こんな魔法少女世界選手権なんて見世物を企画して。

 魔法をなんだと思っているの?

 そんな国には、優秀な魔法少女なんかいないことを証明してみせるわ」



 このような調子で、我も我もと似たような意見が出てくる始末。


 だが、イズミは打って変わって、貝のように沈黙した。


 呆れて、反論を諦めたわけではない。


 相手の腹の中の不満を吐き出させていたのである。



 全員が言うだけ言って沈黙したところで、イズミが口を開いた。



「カナ。言い返しなさい、この人たちに。

 あなたなら、言えるわよね?」


「え!?」


 イズミの無茶ぶりに、カナは言葉を失った。


「あなたは、昨年の準優勝者のお姉さんより強いから、ここに来ているのでしょう?

 言い返しなさいよ。

 もう前哨戦が始まっているのよ」


「……」


「あなたは決勝戦に私と残るのでしょう?

 だったら、彼女たちに勝つということよね?

 魔法で勝つより、口で勝つ方が簡単よ。

 さあ、早く!」



(イズミは、なぜ私に振るの?

 話の流れから、そのまま自分で反論すればいいじゃない。

 私に何を期待しているの?

 口で勝つ方が簡単なんて……。

 あ、……もしかして!?)



 カナは、イズミの意図するところが読めたような気がした。


 相手が言葉で揺さぶってきたときに、言い負かされないようにしろ、ということだ。


 それには、感情的な言葉では駄目だ。正論をぶつける必要がある。



 腹は決まった。


 気づかれないように深呼吸もした。


 カナが、舌戦に受けて立つ。



「この魔法少女世界選手権は、魔法少女が魔法でのみ競い合う、一種の個人競技よ。

 競技だから、守るべきルールがある。

 それに則って最後まで勝ち残った者が勝者となる」


 カナを取り囲む選手たちは、理詰めで来たか、と困惑顔になる。


「競技に参加する人の中には、それまで歩んできた困難な人生があり、今も様々な辛い境遇の中で生きている人がいる。

 それには同情するけれど、競技でハンディが与えられるわけでもないし、加点もされない。

 つまり、それらは勝負に何も関係がないの」


 イズミが初めて、ニコッと笑った。


「正々堂々と戦うということは、ルールに則って、自己の魔法のベストを尽くすこと。

 そうなれば、勝敗の結果は、(おの)ずから付いてくる。

 だから――」



 とその時、取り囲んでいた選手たちは、ゾロゾロと控室から出て行った。


 無言の敗北宣言である。


 全員を見送った二人は、互いに顔を見合わせて、にこやかに笑った。



「受け売りにしては、上出来よ」


「ひどーい」


「あのねぇ。誰だって、最初は受け売りなの。

 感動した言葉が糧となって、それがいつしか、自分の言葉になり、信念になるの」


「そっか」


「お母さんの言葉、随所に入っていたわね」


「ま、……まあね」


「とにかく、あんな連中なんか、叩きのめして、私と戦うのよ。

 約束よ。

 あなたは私のライバルなんだから」


「わかった。約束する」



 カナは、直近の出来事を振り返った。



 母親に怯える自分。


 ナディアの行動を気にする自分。


 イズミに助けられてばかりの自分。



 共通するのは、心の弱さだ。



 家に帰れば、優しい姉妹に囲まれる。


 それが自分を駄目にする、と考えるのは、責任転嫁。


 これも心の弱さだ。



 強くなろう。体も心も。


 すぐに取り組まないと、今のままでは本当にダメ人間になる。


 やらねば。着実に。



 カナは、澄み切った空気を胸いっぱい吸い込んだような気持ちになった。


 彼女に迷いはない。


 そして、力強く歩み始め、イズミとともに控室からグラウンドへと向かった。


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