159.密室からの脱出
真弓が同じ部屋に二人。しかも、頭のてっぺんからつま先まで、鏡に映したと見間違うほど同じなのだ。
もし、この場に一般人がいたとしたら、彼らには二人の区別は不可能だ。だが、魔女同士は体から発する魔力の違いで区別が出来る。
「いやー、魔獣に釣られて、てっきり外へ行ったと思ったよ。
それも芝居だったとは、恐れ入った」
偽の真弓が笑みを浮かべて感心していると、本物の真弓が無表情に答える。
「このわたくしが後ろに目がないとでもお思いでしょうか?
外に出た後で、建物に侵入する人を見逃すはずがありません」
「敬語を使わなくていいよ。首がむずがゆくなる。
昔みたいに、ワイルドにいこうじゃないか。
お嬢様を前にして、汚い言葉を使うのは気が引ける、ってのはわかるけどさ」
「あれは大昔の、使用人になる前の話。
若気の至りです」
「固いなぁ……。
まあ、蜂乗家の人々はみんなそうだから、染まるのも仕方ないか」
「それより、お嬢様に手出しをしたら、ただでは済みません」
本物の真弓が、右手を前に突き出す。続いて、リンが両方の前足を上げる。
どちらも、魔法発動の構えだ。
「カナは後ろへ下がって」
「はい」
カナは、素速くリンの後ろに回った。
「出たー。2対1の攻撃。
これは、いじめだね。
それとも、僕の魔力に怖れをなしているのかい?」
リンが顎で左の壁を指し示す。
「逃げようったって、そこの壁はドアと違って抜けられないわよ」
「そんなの、とっくに気づいているよ。
昔から、この屋敷には、妙な細工がしてある。
でも、君たちも、ここでド派手な魔法を使えない。
だって、こんな狭い部屋で魔法を発動したら、部屋が吹き飛ぶだろう?」
偽の真弓がニヤリと笑った。
「さあ、どうする?」
本物の真弓とリンが、ハモるように答える。
「貞子を捕らえる」
「ふーん。
じゃあ、とっておきのショーをお目にかけようかなぁ。
もちろん、そこのお嬢様をお客様として連れて行くからね」
「それは無理よ」
「どうかな?
昔から、この屋敷の細工を変えていないよね?
だったら、抜け道は研究済みさ」
貞子がそう言って右手を真上に突き上げ、指を鳴らした途端、貞子とカナの姿が煙のように消え失せた。
「しまった!
空間移動を使われたわ!」
「リン。後を追いましょう。
無詠唱でも、あの魔法と同じ魔法を使っているはずです」
「じゃあ、よろしく!」
「はい。
移動!」
真弓も貞子と同じポーズを取って詠唱すると、リンと一緒にフッと姿が消えた。