15.スヴェトラーナとの舌戦
「どんな話ですか?」
「いいから、来いと言っているんだ!」
「その話は、私にも聞かせてもらえないかしら?」
スヴェトラーナとカナの間に、イズミの右腕が割り込んできた。
さらに、彼女の体半分が割り込んできたので、スヴェトラーナは後ろに下がって舌打ちをする。
「フン、仲間の助太刀か」
「あなた、スヴェトラーナ・グリンカさんでしょう? カナの対戦相手が、試合前に何の話があるの?」
「なーに、身の上話さ」
「なぜ今頃?」
「お近づきになりたいからね」
「その割には、威嚇的ね。お近づきの意味をわかって言っているの?」
「じゃあ、言わせてもらおう。ここにいるヤマト国以外の全員の気持ちを、な」
そう言ってスヴェトラーナは、周囲を見渡す。
いつのまにか、十数人が周囲を取り囲んでいた。
カナは、ナディアの姿を探す。
だが、すでに控室を出たらしく、見当たらなかった。
「本当に、ここにいる全員の気持ちかどうかわからないけれど。――いいでしょう。おっしゃって」
「ヤマト国って、呪詛の国だよな。
呪術師どもが、なぜ海外の神聖な魔法の真似事をしているんだ?」
「真似事だなんて――」
「黙れ!
外国の技術を猿まねする民族が、魔法にまで手を出して真似をして、一丁前の魔法を使ってみせる」
「だから――」
「そんなサルどもの国が、今度は科学を使って疑似魔法を作り出し、海外へ輸出する。
神聖な魔法に一般人まで巻き込んで、世界中の魔法界をぐちゃぐちゃにしたのは、ヤマト国なんだぞ!」
「あっ、そういう低レベルな議論をしたいの?」
「なんだと!」
「あのー」
「カナは黙っていて」
「は、はい……」
「魔法の起源となるものは、世界中にあるから、どこが発祥の地とは言えないわ。
それに、話を聞いていると、魔法を文化としたとき、他国の文化を取り入れることが問題だと言っている。
本当にそうなの?」
「そうだ。問題だ」
「なら、ヤマト国発祥の武道の真似をしている、あなたたちの国の人々はどうなるの?
何十万人もいると聞いているわよ。
すっかり国際的スポーツにまでなっている。これは大問題よね?」
「……」
「話をすり替えているだけ。
あなたの目的は、カナの戦意喪失。
控室から前哨戦を始めている。
そうでしょう?」
「なぜ、世界三大魔女の一人がヤマト国にいるんだ!?
どうして、さっきの一般人みたいな人が三大魔女なんだ!?」
「ヤマト国の武道の大会で、上位入賞者の多くは海外の人よ。
だからといって、どうしてヤマト国の人間じゃないんだ、とは私たちは言わないわよ。
だって――」
「わかっている! 実力があるから、ってことはわかっている! でも納得がいかないんだ!」
「今更、閉鎖的な考えは、やめなさい。
いつの時代の考えを引きずっているの?」
「金持ちにはわかるか! 身寄りのない者たちが入れられる貧しい施設で虐げられてきた気持ちが――」
「あーあ、そういう話を持ち出してくるんだ。
今度は、同情を引いて戦意喪失を狙うのね」
「何!?」
「勝負に関係ないことを次々と引っ張り出して、相手を陥れて、それで勝って嬉しいの?
私、曲がったことが嫌いなの。
正々堂々と勝負してはいかが?」
「!!」
スヴェトラーナは、憤怒の形相でイズミを睨み付けた。
首筋に血管が浮き上がり、顔が一気に赤らんでいく。
そして、周囲の三、四脚の椅子に蹴りを入れて倒し、取り囲む選手の輪から飛び出していった。