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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第二章 魔法女学校
141/188

141.ユカリの謝罪

 カナの座席は、真ん中の列の一番後ろになった。


 と言っても、座席は三列三行の九つしかないので、それほど後ろでもない。



 彼女は、自席から級友の背中を見る。


 一緒に魔法少女世界選手権大会に出場したのは、イズミとミヤビのみ。偶然だろうが、二人とも長女だ。


 他は、次女以下で会っていない。つまり、大会に参加したのは、姉になる。



 最前列の左から、美男子みたいな六隠(ろくなばり)ハル。


 今も眠そうにウトウトしている三奈田(さなだ)ナツ。


 ビクビクしている二一宮(にいみや)フユミ。


 二列目左から、自分の席を離れて、また教室の隅で座り込んでいる壱番矢(いちばんや)アキ。


 今は仲良しの五潘(ごはん)イズミ。


 椅子の上で体育座りしている四石(しこく)ミヤビ。



 自分の両側は、空席だ。


 この方が落ち着くのだが、寂しくもある。



 退屈な国語の授業と英語の授業が終わると、15分休憩。


 何人かが、体をほぐすために伸びをしながらおしゃべりが始まると、突然、教室の前のドアから、ユカリが入ってきた。


 思わぬ上級生の登場。しかも、あの七身(ななみ)ユカリだ。


 教室の空気が、一気に張り詰める。



「カナは、いるか?」



 そう言いながらも、ユカリはすぐにカナの顔を見つけて、手招きをした。


「来いよ」


「ちょっと待って」


 そう言ってイズミが立ち上がり、カナはユカリが見えなくなった。


「――お前か」


「何の用?」


「カナには何もしないから、怖い顔すんな」


「なら、一緒について行っていい?」


「ああ、ちょうどいい。お前も来てくれ」



 カナは、イズミに先導されながらユカリの後を付いていき、教室を出た。


 どこかに連れ出すわけではないらしく、ユカリはすぐに立ち止まった。


 そして、振り返ると、いきなり深々と頭を下げた。


「今朝は助けてくれてありがとう」


「い、……いえ」


 今まで見たこともない態度に、カナは返す言葉が思いつかなかった。


「全く覚えていないんだ。

 いつ憑依されたのかも。

 それと……」


 ユカリは、言いにくそうな顔をして、小声で言葉を続ける。


「イズミ。

 お前には、大会では……ひどいことを言った。

 カナ。

 お前にも、ひどいことをした。

 ……あ……謝る」


 そして、また深々と頭を下げた。


「これからも……同じ学校に通うことだし……仲良く……できたら」


「急にどうしたの?」


 イズミは、腕を組んで首を傾げる。


「あれから、ママに叱られたんだ」


 カナは、まさか自分に対する破廉恥な行動への叱責ではないだろうか、と顔が赤くなる。


 イズミも目撃しているはずだが、彼女はそれには触れず、冷ややかに言った。


「なぜ優勝しなかったか、って?」


「いや、選手に怪我させたから」


 それはルシー王国代表のナディア・ラフマニノフのことだろう、とイズミもカナも思った。


「勝つためには、何をしても良いと勘違いしていた。

 本当に謝る! ゴメン!」


「謝るなら、ナディア・ラフマニノフに言って」


「それが……」


 ユカリが、ぽろぽろと涙を流し始めた。


「意識が……まだ……戻らないんだ」


 イズミは心を痛め、カナはもらい泣きをした。


「試合中に起きたことだからって、ルシー王国側も訴えないらしいけど……。

 どうすればいい?」


 イズミとカナは、顔を見合わせた。


 アドバイスを求めるまでもないだろう。


 カナは涙声で答える。


「お見舞いに行ってあげて」


「……だよな。

 うん。ありがとう」


 ユカリは、再び頭を下げた。



「そういえば――」


 彼女はすぐに、頭を上げた。


「誰が憑依していたか、知っているか?」


 カナは、一瞬だが言うべきかを迷った。


 しかし、「桑無(くわなし)貞子(ていこ)」と答える。


 ユカリの顔が見る見る青ざめていく。


(くのつぎ)一姫(いつき)に次ぐ危険人物。

 ……やっぱりそうか」


「そうかって何?」


「完全に意識が乗っ取られたから。

 ハイレベルの魔法使いなら、憑依されてもいくらかは意識を保てるけど、それがなかった。

 そんな高度な憑依が出来るのは、あの二人しかいないからさ。

 ……とにかく、ありがとう」


 ユカリは軽く手を上げると、廊下を歩く他の生徒の視線を気にしながら、逃げるように立ち去った。


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