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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会
14/188

14.母親が審判員

 カナは、着席時に足がもつれ、ガタッと大きな音を立てた。


 同時に、マイコが回れ右をする。


 もちろん、それは、選手の方に向かって話をするため。


 だが、彼女の視線が一瞬だけ騒音の方を向いたので、カナの心臓はバクバクが止まらない。



 手招きをしてくれたのは、五潘(ごはん)イズミ。


 気遣ってくれた彼女に感謝するカナは、左を向いて素速く一礼した。



 返礼はなく、さっきから真剣な表情を崩さないが、悪意は全く感じられない。


 実は生真面目で、言葉には出さないが心優しい人ではないかと思えてくる。


 イズミへの第一印象は、崩れ始めていた。



 唐突に、イズミがヘッドセットを外して、カナの左耳に口を近づけてきた。


 意図を察したカナは、同じくヘッドセットを外す。



「あの人、あなたのお母さんよね?」


「う……、うん」


「なぜ、ここに?」


「わからない」


「ねえ、あなた――」


「そこ! 静粛に!」



 イズミの追加質問は、マイコの言葉で遮られた。


 アイコンタクトを取るイズミは、カナに無言で謝罪する。


 それに、カナも無言で返礼する。


 二人が慌ててヘッドセットを装着した後、室内は呼吸音も消えた。



 頭を下げたカナは、側頭部に強い視線を感じ、また震えが止まらなくなる。


 マイコは長い間合いの後、ゆっくりと室内を見渡し、おもむろに口を開いた。



七身(ななみ)ユカリがいないようね。でも、時間がないので始めます。

 みなさん、こんにちは。

 審判員の一人が緊急入院のため、急遽代役を務めることになりました、蜂乗(はちじょう)マイコです。

 これから、大会のルールについて説明します。

 ルール違反で失格にならないためにも、しっかりと聞くように」



 それから、選手にとっては既知の内容が、凜とした声に乗って部屋の隅々まで届いた。


 ヘッドセットからは、マイコに似た音声で翻訳された内容が伝わる。


 空気の震えは、肌から感じる。


 漂う緊張感。


 さすが、世界三大魔女は、雑談する余地を与えない。



 大会のルールは、基本的にはシンプル。


 試合時間が15分の一本勝負。


 ダウンしてから10カウント以内に立ち上がらないと負け。


 ギブアップを宣言すると、その時点で負け。



 だが、負けと見なされる細かい規定がたくさんある。


 試合中に選手以外から魔法のサポートやアドバイスを受けると負け。


 相手の身体を損傷させる魔法を使うなど、危険と見なされる行為があると負け。


 試合後に発動する魔法を試合中に使うと負け。


 ETC……。



 他にも負けとなるケースはあるが、審判の判断に委ねられている。


 特に、危険行為か否かの判断基準は曖昧で、どうしても主観が入ってしまう。


 それで、第一回大会では揉めるケースが多かった。



 ルールの説明が一通り終わって諸注意が伝達されていると、突然、控室が静寂に支配された。


 耳がキーンとする。


 その時、さっきから下を向いて母親から目をそらしていたカナは、見えない手で顎が持ち上げられるように感じた。



 青くなった彼女は、反射的に顎を下げて抵抗する。


 しかし、見えない手は、そんな抵抗を物ともしない。


 意思に関係なく下から正面へ、さらに右斜め前へ、顎を捕まれて否応なしに移動させられる視線は、睨み付けるマイコを真正面に捕らえた。



「寝るとは、いい度胸ね」


「寝ていません――」


「なら、話す相手の顔を見なさい」


「はい」



 そう。注意を受けるときは、いつもこうだ。


 箸の持ち方も服の着方も鉛筆の持ち方も、何かにつけ、見えない手が使われる。



 素手ではないので、昔から反射的に、子供ながらの小さな抵抗を試みてはいる。


 それは、親に対する反抗ではない。


 このやり方に人間味を感じないことを、どうしても体の抵抗で伝えたいのだ。


 見えない手に、温もりなどないのだから。



 両者の睨み合いは、マイコの方から視線を切ることで終わった。


 いつからこんな状態になったのだろう。



 カナには、優しい母親の記憶が欠片もない。


 遺伝子をもらっていても、心がつながっていない。


 他人ではない他人。


 それが、母親マイコなのだ。



 それから、大会のスケジュール等、長々と話が続いた後、ようやくマイコが立ち去った。


 控室の扉が、ギーッと重い音を立てて閉まる。


 と同時に、館内放送が聞こえてきて、選手はグラウンドのベンチに、セーラー服の色に分かれて集合するようにと伝えられた。



 選手は次々と立ち上がり、室内はざわめきで満たされる。


 とその時、選手たちを掻き分けるようにして、カナへ近づくライトブルーの髪の少女がいた。


 スヴェトラーナだ。


 彼女は、ちょうど立ち上がったカナの右肩を乱暴につかみ、灼眼を見開いた顔を近づける。



蜂乗(はちじょう)カナだろ?」


「そ、そうです」


「ちょっと話があるから、来いよ」


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