134.クラスメイト
カナたちが先に車に乗り込み、最後に真弓が乗り込むと、待っていましたとばかり、車が発進する。
遅れを取り戻すため、レーシングカー並みにスピードを出すかと思いきや、さすがに雪道のため、猛スピードは出なかった。
それでも、乗っている方からすると、ヒヤヒヤするスピードだったが。
後部座席では、イズミを真ん中にして右にカナ、左にフユミが座っていた。
三人は、簡単な自己紹介等を済ませ、すぐに打ち解けていた。
「そうなんだぁ。
イズミだけじゃなくて、フユミも中一なんだ」
「それに、私もカナも今日が初登校なんて、偶然ね」
「わ、私が1ヶ月先輩なんて、き、恐縮、ですです」
「そのアパートから、学校までバスで通うの?」
「そうよ。うちは貧乏だし」
「私も、ですです」
「今日みたいに、道の途中で一般人が狙っているから、危ないと思うけど」
「そうね。今日でわかったわ。
でも、どうしよう……」
「ねえ、真弓。
毎日、二人をこの車で送り迎えするっていうのは、どう?」
「お嬢様、それは――」
「見捨てるの!?」
「わかりました。奥様に相談いたします」
「お願いね」
「ありがとう」
「ありがとうございます、ですです」
「ところで、イズミ。何やったの?」
「何って?」
「何やらかしたの?
私は、教室を破壊して一般人に怪我させた。
……恐喝されたので、正当防衛だけど」
「ああ、転校した理由?」
「言いにくかったら、ごめん」
「……似たようなものよ。
家にある魔導書が魔女に盗まれ――」
カナはその単語を耳にして、テレビで映し出された魔導書と事件を思い出し、ビクッとした。
「追いかけて魔法で交戦していたら、そこに居合わせた一般人を巻き込んで大怪我させて」
「盗まれた魔導書って、どうなったの?
取り戻せた?」
「ううん。騒ぎのどさくさで、逃げられた」
「その魔導書は、魔獣が封印されていたとか!?」
「いいえ」
「なら、よかった……」
「封印はされていないけれど、魔界から魔獣を召喚する方法とか、いろいろ書かれていたの」
「えええええっ!」
「悪用されなければいいけれど」
少しの間、車内は沈黙が支配した。
カナが、ぽつりとつぶやく
「今度の学校、一般人はいないからいいけど、どんな生徒がいるのかなぁ。
仲良くなれるといいなぁ……」
「そうね。どのくらいいるのかしら?」
「か、カナさんもイズミさんも、わ、私と同じクラスメイト、ですです」
「さん付けは、なしでいいわよ。
……でも、なんで私とイズミが、フユミと同じクラスってわかるの?」
「だ、だって、中一は1クラスしかないから、ですです」
「1つしかないって!? そのクラスに何人いるの?」
「な、七人、ですです」
カナとイズミは、顔を見合わせた。
「ところで、私が大会のことを覚えていない原因がわかったって言っていたけれど」
「ああ、それ?
話せば長いけど、簡単に言うと、イズミはあのお方に記憶を消されたみたいなの」
「お嬢様。お話中に割り込んで恐縮ですが、改ざんされたというのが正しいかも知れません」
「なるほどね。
大会出場の記憶を、両親を看病した記憶に書き換えた、みたいな」
「全く覚えていないわ。
どこで改ざんされたのかしら?」
「おそらく、医務室よ。
イズミは決勝戦が始まる前までベッドで私と話していたのに、決勝戦が終わって戻ってきたらベッドから消えていた。
一方で、決勝戦で審判員に変身していたあのお方が、途中でグラウンドから逃げたので、時間的に記憶の書き換えは可能よ」
「書き換えなければいけない理由は?」
「炎竜の覚醒のために、イズミを利用していたから」
イズミは、わかったようでわかっていない顔をする。
「炎竜って何?」
「そっからかぁ……」
カナは、炎竜の概略を説明した。
それに、大会でイズミが七身ユカリを破ったことや、準決勝で自分と対戦したこと、そして、決勝戦で何が起こったかについても付け加えた。
説明が終わる頃、車は校門前に到着した。
いかめしい造りの校門が出迎える。
そのそばに、ミナ、マコト、イリヤが、首を長くしてカナの到着を待っていた。