13.前哨戦
指示された集合場所は、選手の控室だった。
開きっぱなしの扉から中を覗いてみると、かなり広めの部屋に折りたたみ式の椅子が並べられ、選手たちが着席していた。
横方向に八脚あるので、参加者の人数を考えると、それが四列だろう。
色とりどりの襟のセーラ服と様々な髪型の後頭部。
凸凹の高さにある頭をざっと見渡すと、空席がほとんどなさそうだ。
こうなると、遅れて入っていって注目を浴びることが恥ずかしく、足が動かなくなる。
通路で考え事をして、時々足が止まったせいだ。
会いたい人もいるが、遭いたくない人もいたからだ。
自分に言い訳をしつつ、ナディアの頭を探すカナ。
いた。
右半分の中央付近に、ちょうど振り返って首を伸ばしたナディア。
珍しく屈託顔。
あれは、誰かの到着を待ち望んでいる。
カナの心臓がキュッと痛くなる。
待たせるという罪悪感に似た感情が湧いてきた。
謝ろう、ごめんなさいと。
幸いにも、ナディアの左隣の席が空いているようだ。
取り繕ったような笑顔しかできないが、仕方ない。
心を落ち着かせて、足をそちらに向ける。
左腕を持ち上げる。
その刹那――、
紫色の襟がカナの横から現れて、視界が遮られた。
そのセーラー服を着た少女は、背が高く、ライトブルーの髪の毛でサイドテール。
手を振りながら着席する少女に、ナディアは空席に置いていたハンカチを見せて何かを言う。
サイドテール同士が、肩をポンと叩いて喜び合う。
そして、互いの左の頬をくっつける。次は右の頬を。
最後に口づけも。
間違いない。
あれは、スヴェトラーナだ。
立ち尽くすカナは、その光景が目に焼き付いた。
あの域に達するまでに、施設で何年苦楽をともにしてきたのか。
初対面から数十分の会話で親友に加えてもらうことを考えた浅はかさ。
茫然自失の彼女は、両眼に涙がこみ上げるのを感じた。
仕方なく、左半分に自分の居場所を探す。
すると、後ろから衣擦れの音がして、ただならぬ人の気配が近づいてきた。
ゾッとするような魔力。
しかも、幼いときからよく知っている魔力。
「そんなところに立っていないで、さっさと座りなさい!」
昨日も聞いた凜とした女性の声が、カナの背中をひどく叩いた。
すると、前方で一斉に衣擦れの音がして、選手たちが振り返る。
音を立ててぶつかるような彼女たちの視線を浴びて、頭からつま先まで感じる痛み。
だが、その視線は、すぐに左横へ向けられた。
黒い三角帽子に黒いローブ姿が、正面を向いたまま通り過ぎる。
この見慣れた後ろ姿は、カナの全身の筋肉を震えさせるのに十分だった。
黒一色の女性は、邪魔な彫像になったカナに振り向くことなく、衣擦れの音だけを残して遠ざかっていく。
選手たちの目は、この女性の動きを、瞬きもせず追い続ける。
なぜなら、間近に見る世界三大魔女――蜂乗マイコだから。
とその時、左側の選手の中で、カナの方を向いた者が一人だけいた。
彼女は、しきりに手招きをして、右隣の空席を指し示す。
導かれるままに、カナはそこを目指して走った。