126.七匹の魔獣
「そして、本題」
「えっ? 今までのは本題じゃないんですか?」
「お待ちかねの、例の魔女が封印を解いた魔獣の話よ。
まず、火、水、風、土の属性を持つもの。
それと、木、光の属性を持つもの。
最後は、時の属性を持つものの七匹よ」
「これまた、いろいろと……」
「古いタイプの魔獣らしく、大会に出場した魔法少女の実力なら、なんとかなるみたい」
「それは安心しました。
魔導書に封印しなくていいんですよね?
ボカスカやっつけちゃって」
マコトは、指をポキポキと鳴らす。
「お母様から、遭遇したら即時に消滅させること、と指示が出ているから大丈夫よ」
「腕が鳴るなぁ」
「問題は、魔女の方。
ちょっと、手強いかも。
それで、カナ?」
「は、はい、ミナお姉様!」
「あなたの出番よ」
「なぜですか?」
「破壊系の魔法で、お母様をサポートして欲しいから」
カナの心臓が、ズキンと跳ねた。
「それと、魔獣と関係ないけれど、今度の学校通い、十分気をつけた方がいいわよ」
「なぜですか?」
「まず一つ目。
今度の学校は、一般人は一人もいないの。
先生も職員も魔法使い。
つまり、周りは真の魔法使いのみよ」
「姉さん。それは、そうでしょう」
「『生粋の魔法少女が集まる学校』って言うのは、聞こえのいい話。
手加減しない魔法が飛び交うから、覚悟してね」
「「「はい!!」」」
「二つ目は、登下校のこと」
「登下校?」
「さっきも、国立魔法科学研究所の所員に気をつけてって言ったけれど、どうも、学校周辺では、他にも疑似魔法を悪用する一般人がうろついていて、事件が相次いでいるらしいの。
この制服だと魔法少女だとバレバレだから、挑発されるわよ」
「ああ、なるほど。
それにしても、研究所所員以外に一般人にも気をつけなければいけない。
なんだか、人間不信になりそうです」
「もし遭遇しても、身の危険を感じるとき以外は、決して魔法で応酬しては駄目。
ずる賢い一般人は、法律を盾にするから。
私たち、すぐカッとなって応酬するけれど、今回転校させられたことを思い出して。
――あっ、カナちゃんを責めてはいないわよ。
悪いのは、私もマコトもイリヤも同じ。
相手の挑発には、とにかく我慢よ」
「「「はい……」」」
「それから、最後に。
これらの対策もあって、お母様が、登下校用に自動運転の車を4台、護衛に使用人を1台に付き一人、合計四人分用意したわ。
蜂乗家専用の高級車よ」
「それまた、厳重ですね」
「各自の小型端末にアプリをプッシュしておいたから、それを音声で起動して車を呼び出してね。
使用人も一緒に乗ってくるから。
車の入れるところなら、どこにいても迎えに来てくれるわよ。
今度から、学校帰りにどこかへ寄るとか、道草はできないけれど、我慢してね」
「「「はい…」」」
カナの心臓は、キューッと締め付けられた。
「私たち」と言われても、自分が入っているのだ。
「責めてはいない」とフォローされても、事件を起こしてしまった罪悪感は消えないのだ。
それに、前からそうだが、長女ミナの前では極度に緊張する。
なぜなら、ミナは、あの怖い母親の跡継ぎ。
蜂乗家の中で、母親に継ぐ権力を持っている。
柔和で、虫一匹殺さないような顔をしていて、得意とするのは攻撃魔法ではなく回復魔法。
心遣いは、慈愛に満ちた天使のように優しい。
だが、実際には、怒りのツボがたくさんあって、うっかりそのツボを押すと、目が大きく開いて手がつけられなくなる。
まだマコトの前なら、話ができる。相談ができる。
イケメンに突き放される感じがするものの、どこかで手を差し伸べてくれる。
接し方が、厳しいながらも優しい父親に近いので、長女ほどの畏れを抱かないのだ。
イリヤは、とにかくべったりくっついてくる甘えん坊さん。
いつも、腕に絡まってきて、しがみついたら離れない。
抱き枕かなんかと勘違いしているように思える。
カナはこんなイリアを、疲れているときは鬱陶しく思うのだが、どこか憎めない。
なので、カナは『末っ子に産まれてくれば良かったのに』とつくづく思うのであった。
「さあ、みんな、練習よ。
車を呼び出して」
マコトは、周囲に人がいないことを確認して、結界を解除する。
ミナのかけ声で、全員が端末を手にして、車を呼び出した。
ガラス戸の向こうは、さっきまでの雪がすっかり上がり、彼女たちはエントランスで雑談をしながら、使用人が迎えに来るのを待っていた。