123.悪魔の囁く声
恐喝の被害者が、暴力の加害者として扱われる。
真実は一つなのに、見方を変えるだけで物事は反転するのだ。
最終的には、警察の事情聴取で五人の恐喝が事件の原因だったことが露呈するものの、それまで、カナは加害者としての立場と周囲の冷たい視線に苦しんだ。
クラスメイトが離れていく。教師もよそよそしくなる。
廊下を歩けば、後ろ指を差される。小声に敏感になる。
では、苦しむなら、最初から金をむしり取られれば良かったのか? 顔を切られれば良かったのか?
断じて、否である。
しかし、この手のトラブルは、先に手を出した方が負け。
ましてや、魔法という圧倒的優位な能力を持っている方が、何かと不利なのである。
認識票から始まったカナのイヤな思い出は、ドミノ倒しのように続いていく。
◇◆◇■□■◇◆◇
最初、病院へお見舞いに行った時、親に嘘泣きの顔を見せる恐喝者が、カナに向かって薄ら笑いを浮かべた。
そいつらは、退院するまで毎日、手土産を持って病院へ見舞いと謝罪に来い、とまで言い放った。
ある時、謝罪が不十分だという理由で、見舞客――カナが来ることが事前にわかって先回りしていた不良グループの一員に殴られた。
カナは、その時の頬の痛みと、唇を強く噛んで滲んだ血の味が忘れられない。
恐喝が判明した後、父親に頭を押さえつけられた恐喝者が、体を折るようにして泣きながらカナに謝罪した。
しかし、その父親は眉根を寄せて言う。
「それでも、こうなったのは、あんたが悪い」
とその時、カナの心の中で、悪魔が囁いた。
(今すぐ、この病院を、この手で破壊してやる。
親も子も巻き添えにして、めちゃくちゃに……)
◇◆◇■□■◇◆◇
カナは、雪景色の中から自分の顔がボウッっと浮かんできたので、ハッとした。
ガラス窓に映り込んだ、氷のように冷たい表情の自分。
いつの間にか、窓に右手をついていたようで、手のひらが冷え切っている。
カナは、時計を見て、慌てて支度の続きを再開した。