120.青天の霹靂
「査定団、終わったわよ」
体の左下から急にかけられた言葉に、カナは飛び上がるほど驚いた。
もちろん、黒猫リンの声だ。
「ビックリしたー!」
「なによ。驚くあんたが悪いんでしょうが」
「はいはい。好きな番組、見ていいわよ」
「こりゃどうも」
リンがテーブルの上に右前足を伸ばし、肉球を使ってズルズルとリモコンをたぐり寄せる。
そして、これまた肉球で器用にボタンを押して、チャンネルを切り替える。
「これこれ。『アニマル集まれ』って番組」
「ああ、『使い魔集まれ』にしか見えない番組」
「まあ、そうだけど――って、見えんわ!
この番組は、一般人向けに、可愛い動物を紹介する普通の番組よ――」
「「癒やされるわよねぇ」」
「なんで、ハモるのよ?」
「だって、それ、昨日も言ってなかった?
毎回、同じこと言うんだもん」
「何? このあたしが、何度も同じ音声を流す壊れたカセットテープとでも?」
「それ、いつの時代の遺物?」
「あああああっ!
査定団に出品して売ろうとしているのね!!
カナは、ついに猫身売買に手を染めるのね!!!」
「あそこは、査定だけ。売りません。
それより、さっきの話、聞いてた?」
「電話? もちのろんよ。
あたしの地獄耳は、微細な音でも一音たりとも逃さないわよ」
「やっぱり、聞こえてたんだ。
盗聴マイクより優れものね、その耳は」
「おそらく、カナの親戚の家に入った最初の強盗は、普通の物取り。
そいつが、盗んだ古文書を古書店に売り払い、本の愛好家が買い取ってテレビに出た」
「ふむふむ」
「さっきの再放送って、何日前?」
「先週」
「運悪いわよねぇ。
先週テレビを見た悪者に目をつけられ、盗まれて。
おまけに、封印が解かれて出てきた魔獣に焼き殺されちゃって。
で、今頃、犯人は七匹の魔獣を従えて――」
「その辺を散歩していると」
「しとらんわ!」
「それにしても、リンはすごーい。
そこまで推理できるんだ」
「あんなぁ、小説を読むお人なら、今までの断片的な情報で、誰でも組み立てられるんよ。
あんさんと、ちゃうねん。
読書家を嘗めたらあかんでぇ」
「いろんな方言とイントネーションが混ざってる……。
一瞬、リンが壊れたのかと……」
「今日はいつもより大きく壊れております――って、壊れとらんわ!
で、カナ?
また警察に駆り出されると思ってるの?」
「今、お母さんが警察の所へ行っているから、多分あとで」
「いや、カナの呼び出しは、ないわね」
「なんで?」
「謹慎処分中だから」
「うっ……、心にリンのナイフが刺さった」
「そういえば、謹慎って、いつ明けるんだっけ?」
「来週――のはず」
「謹慎中は宿題ないの?」
「ない」
「いい学校ねぇ。
そういえば、なんだっけ、国立割ると怒られる魔法女学校だかなんだか」
「国立ヴァルトトイフェル魔法女学校。
リンの地獄耳も、お掃除が必要ね」
「そうそう、その学校」
「思いっきりスルーされた」
「いつ行くの?」
「えっ? 行かないわよ。
ほら、去年の大会の後、お母様が掛け合ったら、転入はしばらく延期になったって聞いたけど」
「ホントに?
ルクスから、『謹慎が明けたら、元の学校ではなく、魔法女学校へ行くことになったぜ』って聞いたけど」
「うそっ!?
それ、いつ聞いたの!?」
「少し前。
あんたが本に顔をつけて寝ていたとき」
カナは、全身の血の気が引くような感覚に襲われた。