12.ナディアとスヴェトラーナ
その後、カナはナディアとしばらく、身の上話をした。
打ち解け合うと、お互いの本音も出るようになる。
悩みも打ち明けたくなる。
本音をさらけ出したときの爽快感。
しきりに頷くナディアの表情から感じる安心感。
先ほどまでのカナの不安な気持ちは、いつしか薄れていった。
カナは、一般人も含めて友達は多い方だが、こうやって本音を言い合う相手は、家族以外で始めてだった。
年上の友人なんて、今までいない。
しかも、外国人だなんて。
カナは今初めて、国境を越えて、かけがえのない親友を得た気持ちになり、涙が出そうになった。
ナディアとスヴェトラーナは、ルシー王国の魔法使いが集められた、とある施設の出身らしい。
そこには、親がいなくて、魔法が使える十八歳以下の少年少女だけが寝泊まりしている。
国からの補助は乏しく、暮らしが貧しいので、働ける者が給与を施設に入れているとのこと。
二人は、その施設の筆頭の実力者。
今回の魔法少女世界選手権大会の賞金は、準決勝に進んだ四位まで出る。
もちろん、二人が狙うは優勝と準優勝。
そうでなくても四位までには入りたい。
今回出場を拒否した世界一と言われる魔法少女がいるので、四位に入れば世界五大魔法少女として有名になり、テレビにも出演できる。
そうして得たお金を、全額施設に寄付して、今まで育ててくれた施設に恩返しがしたい。
夢を語るナディアの目は、輝いていた。
それだけ聞くとお金にしか興味がないようにも思えてくるが、ナディアの違うところは、そのような背負う物がありながら、選手権を楽しむと言い切るところ。
「だって、背負う重圧が気になって、普段通りに動けなくなるわ。
人間って、いろいろな感情が筋肉の動きを束縛するの。
それって、魔法も同じよね?」
「ええ、そうね」
「詠唱に乱れが生じ、術式がうまく展開できず、事象の改変がきちんと出来ない。
それが、見た目には魔法が失敗したように見える。
経験あるでしょう?」
「もちろん」
「だから、悔いがないように、思いっきりやるの。
それには、楽しいという感情が必要なの。
最高のコンディションで、束縛がゼロの状態で、詠唱する。
きっとうまくいくわ」
「うん」
「幸運も引き寄せることができるはずよ。
私はもう駄目だと諦める人のところには、絶対に幸運は来ないから。
だって、諦めたのでしょう? 来なくて当然よ」
「そうね。
ナディアの話を聞いていると、私、この選手権が楽しくなってきた。
うまく出来る気がしてきた」
「でしょう! でしょう!
そうだ。スヴェをここに呼んでくるわ。一緒に話をしましょう!
対戦相手だけど、いいわよね!?」
「ええ、喜んで」
それから、ナディアは更衣室を走って出て行った。
ところが、いつまで経っても彼女は戻ってこない。
スヴェトラーナが恥ずかしがっているのか、顔合わせに反対したのか。
それとも、何か自分が気に障ることでも言ったのだろうか。
生意気なことでも言ったのだろうか。
カナは、気が気ではなかった。
結局、カナは一人のまま、更衣室の置物状態になっていた。
しばらくして、館内放送で選手の集合が指示される。
沈み込んだ顔のカナは、肩を落として更衣室を出た。