119.はぐれ魔女の仕業
『よく聞いて』
母親の言葉に頷きながら、カナは端末をグッと耳に当てた。
「うん」
『天野山川の河川敷のニュース、知っている?』
「河川敷? ……ああ、男性の焼死体がどうのこうのって」
『なら、話が早いわ。
その焼死体が、査定団に映っていた依頼人』
「えっ?」
『本の持ち主よ』
「本当に!?
――でも、今、言っちゃっていいの?」
『大丈夫、少し前に警察が発表したから。
もうすぐニュースで流れるわよ』
「なんか、後ろから男の人の声がする……。
もしかして、会議中って?」
『そうよ。その件の会合よ。
対策会議ってやつね』
「やっぱり、警察署なんだ」
『そう。また捜査に協力しているの』
「ごめんなさい、電話しちゃって」
『ちょっとなら、いいわよ』
「気になったんだけど、あの本って、開いて大丈夫なの?
確か、七匹の邪悪な魔獣が封印されてたって聞いたけど」
『あら、そういうことに無関心のカナも、心配になってきたの?』
「……一応、蜂乗家の人間だし」
『開いたくらいで封印は解けないわよ。
呪文を知っていれば別』
「よかった……。
もう魔獣が飛び出した後かと」
『いいえ、もう遅いわよ。
なぜなら、盗んだ犯人は、呪文を知っている人物だから』
「なぜ、呪文を知っている人物が犯人ってわかったの」
『燃え方が普通じゃない。一般人には無理。
それに、現場に魔獣の痕跡があったの。
七匹のうち、炎を操る魔獣がいるけれど、おそらく、そいつの仕業ね』
「と言うことは――」
『そう。封印は解かれている。
だから、呪文を知っている人物が犯人』
「まさか、あのお方じゃ――」
『十一姫?
一般人には手を出さないから、違うわよ』
「あっ、そしたら、その人物の名前って、もしかして――」
『電話でその名前を口にしては駄目』
「なんで?」
「今、マンションでしょう?
壁なんて、彼女からすると、あってないようなものだから。
なぜ、あなたたちが4LDKに一人一戸ずつ住んでいるのか、わかるわよね?
じゃ、切るわよ』
「忙しいのに、ごめんなさい。ありが――」
プープープープープープープープー……
カナは、大きなため息をついた。
(かけるのは、こっち。
でも、切るのは、いつも向こう。
最後まで人の話を聞かないし……)