118.盗品の発見
『ジャジャーン! 五百万円! やりました! 本人査定額の二十万を大きく越えました!』
『いやー、いい買い物しましたねぇ』
『買う前は高いなと思ったのですが、決断して良かったです。
これを売って、海外旅行、いや、世界一周旅行に行きます』
『古書がご専門の本魔出須先生に聞いてみましょう』
『この本が書かれた年は、魔女狩りが盛んだった頃――』
マイクを持った白髪の紳士――本魔出須先生が、横向きで解説を始めた。
すると、カメラが切り替わって、本のアップが映し出される。
ゆっくりとワイプするので、本に描かれた幾何学文様がよく見えた。
カナは、目に焼き付いた幾何学文様を、必死で記憶と照合する。
(間違いない! あの本は――)
血の気が引いた彼女は、近くにあったタブレットサイズの端末を手に取る。
そして、側面のボタンを長押しすると、たちまち、端末は片手サイズに縮んだ。
「お母さんを呼んで!」
端末に向かって叫んだ彼女は、音声操作で発信を開始した端末を右耳に当てる。
プルルルルルッ……プルルルルルッ……プルルルルルッ……プルルルルルッ……プルルルルルッ……
まだ5回しか呼び出し音が鳴っていないが、彼女はイライラする。
(また無視――)
プルルルルルッ……ボボッ
待ちきれないカナは、短く叫んだ。
「お母さん!」
『カナ……』
呼びかけに続いて端末から聞こえてきた、母親マイコのため息。
カナは、舌の上に転がった言葉を飲み込んだ。
伝えたい気持ちまでそがれ、力なく、テーブルに視線を落とす。
「……」
『カナ?』
「……うん」
『また電話? さっきも言ったでしょう?』
「わかっている」
『なら、何の電話?』
「……」
『どうしたの?
はっきり言いなさい』
母親の言葉に怒気を感じたカナは、息を大きく吸う。
こうなると、出てくる言葉は、いつもの謝罪しかなかった。
「ごめんなさい」
『それを言うため?』
「ううん。違う」
『なら、何?』
カナは、さっきまでの勢いはどこへやら、淡々と用件を口にする。
「今、テレビ見てる? 『貴方のご自慢品の査定団』って番組。再放送だけど」
『会議中よ。後にして――』
「そこに中世末期の古文書って映ってたんだけど……」
『……』
「あれ、うちの親戚が去年、家に強盗に入られて盗まれた魔導書じゃないかって?」
『……』
今度は、母親が黙り込んだので、カナはイヤな予感がした。
「もしもし? 聞いてる? テレビにちらっとアップが映って、古代文字と特徴的な幾何学文様が――」
『その話だけど』
急に声のトーンが変わった母親に、カナはギクリとした。